世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.127「日本人ライダーが欧州メーカーのチームで走ることの意味」
今、目の前にある好条件をつかむ
藍くんの立場になってみると、どういう形であれホンダとは袂を分かつことになるわけですから、「思い切った決断」と感じる人も多いかもしれません。日本人なら日本のメーカーにいた方が優遇されるんじゃないか、将来も多少は約束されているんじゃないか、と。 でも僕はまったくそうは思いません。ライダーである限り、ひとつでも上を目指そうとするべきです。どうなるか分からない将来のことで自分の道を決めるより、今、目の前の好条件をつかむべきなんです。 レースは、道具を使うスポーツです。そしてライダーは、勝ちたくて、勝つためにレースをしている。だったら、今の時点でよりよい道具を選んだ方がいいに決まっています。 ──今シーズンはMT Helmets – MSI チームでMoto2を走っている。
将来のことなど、「勝つ」という目的以外の事柄は、必要ありません。そんなことを考えるぐらいなら、レースなんか辞めた方がいい。なぜなら、すでに勝つこと以外を意識しているからです。そんな気構えで通用する世界ではありません。 勝つこと以外のことを考えていたら、絶対に勝負し切れないんです。激しい競り合いの中、頭のどこかで少しでも勝つこと以外の何かがよぎったら、その時点で、もう負け。世界でトップを獲るというのは、そういうことなんです。保険を掛けてはいられません。 逆に、勝ちさえすれば、「また乗ってほしい」という話になる。完全に自分の頑張り次第、実力次第。特に海外メーカーのロジックは本当にシンプルで、うまくやればすぐ評価されるし、できなければ翌年の契約はない、というだけのこと。シンプルだからこそ、やりがいがあります。 僕がヤマハからアプリリアに移籍した時、はっきりとした自信はありませんでした。何しろ乗ったことがないマシンですから、どうなるかは分からない。でも、総合的に判断して、「あのマシンが手に入れば勝負できるな」と思えたのが、あの当時ではアプリリアだった、ということなんです。 そこからは、実力だけです。残念ながら僕はアプリリアでチャンピオンを獲ることは叶いませんでしたが、イタリアのメーカーが日本人の僕と契約を続けてくれたのは、彼らが望むだけの結果を残せたから。ただそれだけです。 そして藍くんも、そういう海外メーカーの実力主義を十分に理解したうえで、そこにやりがいを感じての移籍でしょう。かねてから彼は「Moto2でチャンピオンを獲ってからMotoGPにステップアップしたい」と言っていました。しかし今回の昇格・移籍は、「Moto2タイトル獲得に関わらず」という決断です。そして僕は、これも正しいと思います。
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