経営学、全学生の必須科目に 「工学×経営」を進める大学、地元企業と連携も
■大学の文理融合を考える①
日本経済の強みであるものづくり産業を支える工学の技術者(エンジニア)には、専門的な技術や知識が求められてきました。しかし、DX時代となって技術者に求められるものが変化する中で、大学でも「工学×経営」という観点から、技術を経営に生かすための教育を行っているところがあります。その一つ、公立諏訪東京理科大学(長野県茅野市)は、工学部のみの大学ながら、1年次から全員が経営を学ぶユニークなカリキュラムを取り入れています。もの作りの現場からの視点を持ち、企業の経営に役立つ人材を育てています。(朝日新聞Thinkキャンパス) 【写真】実就職率トップ10 商社編ランキングはこちら
座学+体験型授業で、経営を身近に感じる
マネジメント基盤教育のカリキュラムは、マネジメント科目と地域連携科目という2本の柱から構成されています。 マネジメント科目は、1、2年次の学生を中心に行われる座学の授業です。1年次必修の「企業システムと経営管理」のほか、経営戦略やマーケティング、デザインマネジメント、海外展開に必要な国際経営や国際化戦略など、企業経営の基本を身につけます。工学部に入って経営学を学ぶことにとまどう学生も少なくありませんが、共通・マネジメント教育センターの韓暁宏教授はこう説明します。 「まず経営学を学ぶ必要性を感じてもらうことが大事。授業では、円安やビッグモーターのニュースといった時事問題や、学生にとって身近な就職関連の話題を取り上げるなど、興味を持たせる工夫をしています」
「生きた経営」を学ぶ
もう一つの地域連携科目は、諏訪地域に特化した内容を多く取り込んだ学びになっています。地域の企業などに見学に行ったり、学生同士でディスカッションをしたりするアクティブラーニングを展開しています。 その中の「地域に学ぶ経営」では、地元企業の経営者や幹部の講演を聞き、ディスカッションを行います。2023年度は小松精機工作所、セイコーエプソン、ヤッホーブルーイングなど5社の社長や事業部長が講演しました。この授業の主担当である久保吉人准教授はこう話します。 「今回は全員、理系出身者にお願いしました。理系の経営者は文系と違って、自然科学をベースにビジネスを考えることができます。工学部で学ぶ学生の参考になるように、理系出身経営者ならではの視点を引き出したいと思いました」 講演では、自身の生い立ちや、学生時代の失敗、人生観や経営観、経営者としてどのように成長してきたか、会社の危機をどう乗り越えたかなど、毎回さまざまな内容が語られます。講演後のディスカッションを通じて、学生は大学での研究と企業の研究開発との違いを感じ取ったり、ものづくりの現場で顧客の視点がいかに重要かを実感したりするなど、多くの気づきがあるといいます。 「将来、学生たちがビジネスリーダーになったときのことを考えると、ビジネスの第一線で活躍する経営者の生きた言葉を通じて、リーダーシップを学ぶ意義はとても大きいと思います。この授業が技術者としてのあり方を考える転換点になればと願っています」(久保准教授) 2年次必修の「地域連携課題演習」も特徴的な授業です。工学部にある情報応用工学科と機械電気工学科の2学科の学生が混合で10人程度のチームを結成し、地元の企業などに現場の声を聞いて課題をあぶり出し、チームごとに解決するためのアイデアを提案します。22年度は、農家の無人販売の課題について解決方法を考え、公開発表会で披露したチームもありました。 「学生目線での提案ですが、画期的なアイデアが出てくることもあります。課題解決力やプレゼン力が培われるのはもちろんのこと、いずれ社会に出ていく学生たちにとって、地域の人たちとの交流を通して実社会に触れることは貴重な経験になるはずです」(韓教授)