経営学、全学生の必須科目に 「工学×経営」を進める大学、地元企業と連携も
「経営のリアル」を知る
学生はマネジメント基盤教育をどのように受け止めているのでしょうか。 大学院工学・マネジメント研究科修士課程2年の江口兼生さん(24)は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽電池の研究に取り組んでいます。 「大学に入学してから、経営を学ぶことを知って驚きました。その一方で、工学部に入ると専門の勉強ばかりで視野が狭くなるのではないかとも思っていたので、経営を学べるのはうれしかったです。高校にはなかった学問分野で、社会で活用できそうなことにも興味を感じました」 特に「地域に学ぶ経営」は、強く印象に残っていると言います。 「地元企業6社の経営者の方々の話から、会社経営は型通りに進められるものではなく、目まぐるしく変わる世界情勢や業界の動きを見ながら臨機応変に対応していかなければならないことを感じました。また、同じ経営者という立場でも、会社ごとに何を大事にしているかが違います。これは複数の経営者の講演を聞いたからこそ実感できました」 江口さんが研究しているのは、有機薄膜太陽電池です。 「薄い膜状で軽量、光透過性にも優れているため、既存の窓ガラスや外壁に貼るといったフレキシブルな使い方ができます。実用化レベルになれば多くの電力生産が可能になるだけでなく、太陽電池が身近なものになっていくと思います」 江口さんは、修士課程修了後、技術職ではなく、監査法人のアドバイザリー業務に就くことにしました。工学部からコンサルになるという進路選択には、学部生時代の経営の学びが大きく影響しています。開発現場を知る立場を生かして、企業に対して出口戦略からの提案ができるのではないかと考えたからと言います。 「技術職として就職することも考えましたが、就職活動を通して面接で自分が何を話しているときにワクワクするかが少しずつわかってきました。私はビジネスの要素が強く加わる話題のほうがワクワクするのです。経営を学んだことで、技術をどう社会に生かすのかをリアルに考えられるようになったと思います」 マネジメント基盤教育によって、経営や地元の産業に関心を持つ学生は着実に増えてきているようです。濱田学長はこう話します。 「本学はミッションの一つに『地域に貢献するとともに世界にも羽ばたく人材を育成する』を掲げていますが、今の時代は大学が地域と一緒に学生を育てていくことが重要です。地域の企業や地域で暮らす人からたくさんのことを学びながら、成長していってほしいと考えています」 ちなみに、「経営工学」という分野がありますが、これは経営上の問題を工学的な視点から解決していくものです。早稲田大学(創造理工学部経営システム工学科)、法政大学(理工学部経営システム工学科)などでは経営工学が学べます。技術的な工学系の視点が、企業のマネジメントに必要とされている時代です。技術者になるつもりで学んだことが、会社の経営に重要な役割を果たす可能性もあります。理系の枠にとらわれずに、自分がどのような技術者になりたいのかをイメージしながら、学びの内容を比較してみることも、大学・学部選びの際には重要です。
公立諏訪東京理科大学では、技術者が社会の第一線で活躍するために必要な人材教育に力を入れています。核となるプログラムの一つが、技術者に必要とされる経営の知識を学ぶ「マネジメント基盤教育」です。濱田州博学長はこう話します。 「これからは技術者であっても、時代や社会が求めているものを理解して商品開発に生かすなど、ビジネスのセンスやアイデアがなければ、通用しません。企業の経営に対する考え方や戦略を知っておく必要もあります」 経営の知識を技術者に不可欠な素養と捉え、工学を学ぶすべての学生にマネジメント基盤教育を行っています。
朝日新聞 Thinkキャンパス