なぜ、そうなった…?プランクトンのなかで生活する「奇妙なタコ」を静岡で発見!その生態の謎を研究者が追った
いまだに多くの部分が謎に包まれている不思議な生物・タコ。3つの心臓を持ち、人間にはない臓器を備えるなど、知れば知るほど驚きと発見に満ちた魅惑的な存在です。 【マンガ】南海トラフ巨大地震」の衝撃…そのヤバすぎる「被害の惨状」 そんなタコの中に「他の生き物の体内に入るタコ」がいることをご存じですか? 2018年、静岡県の沼津市でタコの不思議な写真が撮影されました。 本記事では、「日本一のタコ博士」として知られる琉球大学の池田譲さんの著書『タコのなぞ 「海の賢者」のひみつ88』(講談社)より、タコの不思議な生態の秘密に迫ります。
他の生き物の体内に入る不思議なタコ、アミダコ
2018年のことです。静岡県沼津沖の海で、ちょっと風変わりな写真が撮影されました。 透明な筒のような体をしたサルパという動物の中に何かが入っているのです。サルパは海をふわふわとただようプランクトンの仲間です。その中に入っている何かとは? よく見ると、サルパの中にいるのは小さなタコです。8本の腕を後ろにそらせて、大きくバンザイをしているような格好でサルパの筒の中に入っています。サルパは透明なので、中にいるタコの様子がよく見えるのです。 このタコはアミダコです。胴体の表面に網の目のように浮きあがるシワがあることから、アミダコという名前がついています。 アミダコは北半球と南半球の温かい海にいます。なかでも、陸に近い海で発見されることが多いタコです。とはいっても、そうそうこのタコにお目にかかれるわけではないので、生きた姿を写した写真とはとても珍しいのです。 サルパの中に入っていたアミダコは外套膜(がいとうまく)の長さが3センチほどの小さなものです。でも、アミダコのメスは外套膜が30センチほどあります。メスに比べてずいぶんと小さなオスですね。 そうです。アミダコのオスは矮雄(雌雄異体の生物で、雌に比べて極端に小さい雄のこと)なのです。 メスも幼く体が小さなときにはサルパの中に入っています。大きくなるとそこから出て、自分で泳ぐようです。アミダコのメスはタコとしては珍しく、鰾(うきぶくろ)を持っています。そのため、海底に沈まずにゆったりと泳ぐことができると考えられます。 アミダコがサルパに入る理由はよく分かっていません。その姿は、まるでアミダコがサルパという船を操縦しているように見えます。プランクトンであるサルパを乗り物として利用しているとも言えそうです。 メジロダコのように道具を使うタコが発見されていますが、アミダコもサルパを乗り物という道具としているのかもしれません。 「オレのサルパ号、いかすだろ」 アミダコはちょっと得意そうな顔をして、そう言っているようです。 …つづく、<タコの「頭のよさ」が凄すぎる…「日本一のタコ博士」が驚愕した《触覚》と《視覚》、ハイレベルな知覚の世界>ではタコの驚くべき五感の秘密に迫ります。
池田 譲(琉球大学理学部教授)