祝・単行本化! 『生きのびるための事務』とは何なのか。/坂口恭平さんにインタビュー。
――どうしたらいいか、常に自分で考えて答えを見つけてきたと。
俺は自分では1回もコンペに出したことがないんです。越後妻有トリエンナーレに出したことはあるけど、あれは友人に頼まれたからで、やるからには通らないといけないなと思って、審査員に気に入られるような完璧なプレゼンテーションをしたわけ。つまり受験のプロみたいなことをしたんです。
――それも自己流なんですね。
そう。俺ね、ちっちゃい頃から横断歩道を渡ってなかったらしいの。右見て左見て車がいなければ渡ればいいっていうのを、4歳からやってたんだって。誰にも習わずに。
――すごいですけど、横断歩道を渡ったほうがいいような気も……。
いやそれがね、子供の死亡事故で多いのは、横断歩道が青になったから渡ったのに、トラックが突っ込んできて跳ねられたっていうケースなんだって。トラックがぐるっと曲がったときに渡ってる子供は死角に入って、運転手は見えてないと思いよる。
――そうか。青だから渡っていい、と思ってしまうと、万が一に備えられない。車はいつ来るかわからないと備えておくほうが理にかなっていますね。
そうそう。だから自分の子どもにも、自分で見るしかないんだからって教え込んでね。「右、左、まだ気になるならもう1回右。どっかで腹決めるんよ!」って。4歳の子が涙目になって歯をくいしばってたけど、頑張って渡ったらむっちゃ満足な顔してるわけ。嫁には「やめてください」って言われたけど(笑)。でも、そういうのが俺にとっての事務なのよ。
――何が正しいかを、教科書を見るんじゃなく自分なりに導いてるわけですね。つまり考え方の整理ができてる。それをマンガのなかではジムというキャラクターが担っているという。
つまり自分と向き合ってるってことだと思うんだけどね。俺、自分と向き合うことが好きなのよ。日本一自分と向き合ってると思う。でも、誰にも相談はしないけど、経験者の話は聞きます。映画化が決まったときはリトルモアの代表の孫さんに契約書の雛形をもらって、自分で書き直した。経験者に話を聞けば、5段階くらいの悩みが取っ払える。それを覚えたのは小1の竹とんぼなのよね。