祝・単行本化! 『生きのびるための事務』とは何なのか。/坂口恭平さんにインタビュー。
――竹とんぼ?
学校の父兄参観で「竹とんぼ作りましょう」ってなったんだけど、うちの親父は別の人が作るのをチラチラ見ながらやってたの。自信がないんだなと思って、でもお父さんは「お父さん」って雛形のなかで生きてるから、壊したらかわいそうじゃん。結構気配り野郎だったの(笑)。それでうまいこと言って小刀を使うのが得意なお父さんのところに行って教えてもらってた。それって信用してないってことなんだと思う、社会を。
――小学生の段階でその感覚を持ってるの、興味深いです。
普通の子は「なんでお父さんできないの!」なんてことをいうわけじゃん。親に甘えられるからこそ怒れるんだと思うけど、自分はそれがなかったんだよね。それでいうと俺、反抗期もゼロなの。もちろん親サイドは俺に対して色々言ってきたと思うけど、右から入って100%左に抜けて、「なるほど」って言って終わり(笑)。だから親は「あなたは『なるほど』って言うだけで一度も実践したことないね」って言うけど「そうですか、でも反抗はしたことないですよ」って。抵抗しないで「ありがとうございます」とか言ってるからインテリヤクザだと思われてる。
――(笑)。
でもね、俺にしてみたら誰かのアドバイスって全部が冗談っていうか。だって俺の人生のほうがリアルだから。そうやって丸くならずに育ってきたから、野生の思考が残ってるんだと思う。みんな人の言うことを聞き過ぎて、鈍りすぎなんよ。一切聞くなって。経験者の意見だけは耳には入れつつ、でも体感しないと意味がないよねっていう姿勢は、僕が小さい頃から自分で身につけてきたことだと思う。
――いや、面白いです。今言ったようなことが、『生きのびるための事務』のなかではジムというキャラクターを通じて教えられるから、哲学書みたいな読後感がありました。なかにはタイトルだけ見て、事務仕事のハウツー本だと思う人もいるかもしれないですけど。
請求書とか領収書を作ってハンコ押すのはただの作業で、それはバイトのおばちゃん。自分の考えを全く違う角度からもう1回整える人、それがジムなんよ。みんなバイトのおばちゃんの作業をしすぎ。ありえないことを実現するときに必要なのが事務で、それ以外は全部バイトのおばちゃんだと思ってる。そんなふうに言うとバイトのおばちゃんに悪いけど(笑)。バイトのおばちゃんも素晴らしい仕事だと思うよ。