土砂災害がたびたび起こる広島 建設された砂防ダム106基と、とどまる住民の思い
被災後の土地に新築物件が
最近、住宅にも大きな変化が見られるようになった。地域の不動産業者は「被害を受けた山側に新築物件が出るようになった」とうれしそうに語る。 「この土地で7代、8代と暮らしてきた名家の豪邸が売りに出されることが多くなりました。高齢の両親が亡くなったタイミングで、近くに住んでいた子どもらが家を売り払います。そして、子どもらも引っ越して他で暮らしている。結果、大きな敷地は分割されて、新たな宅地となっています」 新たな土地に建つのは、働き世代向けのコンパクトな新築一戸建てだ。間取りは平均で4LDK、価格は3500万円前後だという。価格は災害に見舞われていない市内の他地域と変わらないが、販売は順調なのだそうだ。 2020年以降、不動産売買や賃貸契約の際は、土砂崩れや洪水など災害リスクを説明する重要事項説明が業者に必須となった。その住宅が土砂災害警戒区域にある場合、業者は危険性を説明するが、あまり気にしていない人が多いと言う。 「そもそも不動産購入を検討している地区外の人は、災害に対して神経質ではありません。むしろ、市中心部まで20分という利便性を優先します。広島は宅地そのものが非常に少ないので、警戒区域外で一戸建てを探すのは至難の業ですから」 今年も秋口にかけて豪雨災害の季節が到来する。住民は巨大な城壁のような砂防ダムを見上げながら、気象情報とにらめっこする日々が続く。
------ 中原一歩(なかはら・いっぽ) ノンフィクションライター。1977年佐賀県生まれ。社会や政治について雑誌、Webで執筆。著書に『最後の職人 池波正太郎が愛した近藤文夫』『私が死んでもレシピは残る 小林カツ代伝』『マグロの最高峰』『㐂寿司のすべて』『本当に君は総理大臣になれないのか』など。現在、過去のいじめ行為発言について語ったミュージシャンの小山田圭吾氏に関する著作を執筆中。