土砂災害がたびたび起こる広島 建設された砂防ダム106基と、とどまる住民の思い
106基の砂防ダム
「この山だけで大変な量の土砂が流れて出たのです。東京ドーム10個分らしいですよ」 城壁のような巨大な堰堤を指しながら、地元住民の一人がつぶやいた。 阿武山へと連なる斜面にいくつもの巨大なコンクリートの人工物が造られている。砂防ダムだ。最も大きいものは高さ14.5メートル、幅94メートル。上流からの土砂を受け止め、たまった土砂を安全に下流に流す。崖崩れの発生が予測される山の斜面には、急傾斜地崩壊対策事業としてコンクリートでのり面の補強がされた。 国土交通省中国地方整備局などによると、2014年以降、広島市内に設置された砂防ダムは106基(広島県施工24基、国交省中国地方整備局施工82基)。また、急傾斜地崩壊防止施設が完成したのは65カ所(広島県施工23カ所、広島市施工42カ所)にのぼる。 砂防ダム建設には巨額の費用がかかる。中国地方整備局によると、砂防ダム40基の建設に約230億円がつぎ込まれた。実はこれらの事業の実施には、安佐南区を地盤としていたある国会議員の影響が大きいという。2019年の参院選で公職選挙法違反に問われ、有罪が確定した河井克行・案里夫妻だ。国交省の関係者は言う。 「2014年の災害後、これらの事業をいち早く国に進言し、県と市、そして地元の意向を整理し、国交省の直轄事業決定のお膳立てをしたのが河井氏だったことは地元では有名な話です」
この砂防ダムが、住民の一定の安心材料になったのは間違いない。一方、広島市は崖など傾斜地に近接する住宅に対して、土砂災害防止法に基づく移転の補助金を出すようにしてきた。土砂災害特別警戒区域内などに暮らしている人が、安全な区域に移転する際、住宅の除去費で最大97万5000円、移転先の建設費/購入のための借入金の利子に相当する額が補助される。 広島市は2014年以降の点検で災害リスクがあると認定された3万2000カ所の住民に対し、この制度を活用しての移転を促してきた。だが、2022年春の段階で制度の利用はわずか7件。広島市都市整備局は「制度そのものが周知徹底されていない結果」と釈明するが、大半の住民が動かなかったのは確かだ。なぜ危険性のある地域にとどまるのか。