土砂災害がたびたび起こる広島 建設された砂防ダム106基と、とどまる住民の思い
弱音を吐ける高齢者の交流拠点
モンドラゴンは白い小さなプレハブで、坂道の途中に立っている。中に入ると、2014年の被災時の航空写真が貼られ、広島名物のお好み焼きを焼く鉄板もしつらえられている。昼になるとワンコインのお好み焼きを求めて客がやってくる。そして、鉄板の前で女性たちがコテを握る。いずれも被災した地元の人たちだ。家族や友人を失った人もいる。 地域の高齢者にとって、ここは貴重な「弱音を吐ける場所」だ。この8年で3度、災害レベルの豪雨に見舞われたが、移転せずにそのまま暮らすことを選んできた。暮らし慣れた土地であり、砂防ダムができた安心感もあり、また長年見知った顔もある。
災害から8年。地域住民の生活を見下ろすように存在する砂防ダムは防災の要だ。まだ全ての渓流に設置されたわけではないが、すでに災害時に威力を発揮している。 2021年8月の「令和3年8月豪雨」では、広島県内で116件、安佐南区でも16件の土砂災害が発生し、人家2戸の損壊被害が出たが、八木地区の被害はなかった。2014年以降、新しく作られた砂防ダムのひとつは土砂で満杯となったものの、土石流の発生は寸前で食い止められた。
しかし、その「防災ダム」の存在に安心し、避難しなかった人もいたという。当時、災害対策本部が再三再四、避難を呼びかけたが、応じなかった住民がいた。ダムの堰堤の川下、直線距離で500メートルほど離れた場所に暮らす70代の女性もその一人だ。 「ダムがあるから大丈夫だと夫が言うのです。確かに外を見ると、テレビが『危険だ』と言うほどは雨が降っていなかった。2014年の記憶があるので、あの時と比べると大丈夫かなと勝手に思って家に残りました」 また、避難所に行ったものの、いつ帰れるか分からないなら自宅で過ごすほうがいいと訴える高齢者もいたという。体力のない高齢者にとって、豪雨の中で避難したり、避難所で過ごしたりすることも難事なのだ。 こうした現状について松井さんは、今後の避難方法を再考すべきだと訴える。 「警報が出たら避難所へというのは間違っていないのですが、局地的豪雨は数時間でやむ場合もあります。だから、いきなり避難所ではなく、まずは山側から離れた幹線道路沿いのホームセンターや映画館で時間をつぶして、様子をみるのはどうかと(住民に)提案しています。それに住民全員が避難場所となっている小学校の体育館に来られても、体を横にする場所の確保すらできないのが現実ですから」