平安貴族の男性は涙が美徳? 「男なんだから泣かない!」がここまで浸透した背景
Trans-womanであり性社会文化史研究者の三橋順子さんが明治大学文学部で13年にわたって担当する「ジェンダー論」講義は、毎年300人以上の学生が受講する人気授業になっています。その講義録をもとにした書籍『これからの時代を生き抜くためのジェンダー&セクシュアリティ論入門』が、このたび刊行されました。 【漫画】ある日突然、彼氏が女装を始めた...交際中の私が周りに言われた“好き勝手な本音” 今回は、その中から、知っているようで、本当はよく分かっていない人も多いであろう「ジェンダー」という言葉について分かりやすく解説していきます。 ※本稿は、三橋順子著「これからの時代を生き抜くためのジェンダー&セクシュアリティ論」(辰巳出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
ジェンダーは「性差」だけではない
まずジェンダーとは何か? の定義から入りましょう。私は人文・社会科学系の学問の定義は、自然科学系と違って、複数あっていい、多義的でいいと考えていますので、3つの定義をお話しします。 まず、ひとつ目。いちばん簡単に言えば、ジェンダーとは「社会的、文化的性」となります。それではなんのことかよくわからない、もう少し説明をして欲しいということでしたら、ジェンダーとは「人間が生まれたあと後天的に身につけていく性の有り様」と言い換えることができます。 ここで大事なことは「後天的に」の部分です。したがって、ジェンダーとは「身体的性(先天的性)であるセックス(Sex)とは基本的に別次元のもの」となります。つまり、ジェンダーとセックスは一致する場合が多数ではあるけれど、一致しない場合もあるということです。たとえば、生まれたときに割り当てられた性別(Sex)とは別の性別(Gender)を生きるトランスジェンダーは、ジェンダーとセックスが一致しません。 もう一点、注目して欲しいのは、私が「性の有り様」と定義したことです。多くのジェンダー論の先生、とりわけフェミニズム系の先生は「性の有り様」の部分を「性差」と表現します。ジェンダーとは性差であるといった定義ですが、私は、ジェンダーは性差だけではなく、性差を含む性の有り様と考えています。なぜなら、ジェンダー=性差とすると、視野が狭くなってしまい、社会の中のさまざまな性現象が捉えにくくなるからです。もちろん性差の視点は重要です。でも、性差がすべてではないという立場です。