平安貴族の男性は涙が美徳? 「男なんだから泣かない!」がここまで浸透した背景
性差+マイナスの価値づけ=性差別
ここで、性差と性差別について考えてみましょう。性差とは、文字通り男女間の差異です。男性と女性は、遺伝子や性染色体の違いに基づく身体構造に明確な差異があります。女性は基本的に妊娠・出産の機能を持っていますが、男性にはそれはありません。 早い話、私のようなTrans-woman はどれほど頑張っても、子どもは産めません。そうした男女の差異にマイナスの価値づけをしたのが性差別です。つまり「性差+マイナスの価値づけ=性差別」という図式になります。ここは大事なポイントです。 「女性は妊娠をする」これは性差です。そこに「だから会社では使い物にならない」といったマイナスの価値づけをしたら、それは性差別(女性差別)になります。「男性は力が強い」一般的にはそうかもしれません。しかし、「だから粗暴で物を壊す」といったマイナスの価値づけをして、公共施設などへの入場を「禁止」にしたら、それも性差別(男性差別)になります。 たとえば、ゲームセンターのプリクラコーナーの入口に「男性のみのお客様はご遠慮ください」という掲示を見かけることがあります。理由は書いてありませんが、男性だけのグループは機械を壊すという認識があるようです。あるいは、男性が物陰に潜んで女性を襲う危険性があるためという説もありますが、それは明確な性犯罪です。 私がこのプリクラコーナーの掲示の問題性に気づいたのは、男女のカップル、レズビアンのカップルはプリクラを撮れる。でも、ゲイのカップルはプリクラを撮れないという話を聞いたときでした。おそらく、この掲示が設けられたとき、プリクラを撮りたがるゲイカップルがいるという想定はしていないでしょう。つまり、この掲示は男性差別であると同時にゲイ差別でもあるのです。 ジェンダーの定義3つ目。「具体的には、服装・化粧・髪型・しぐさ・言葉づかい・社会的役割など性に関わる体系的な文化事象の総体」となります。なんだか文化人類学っぽいですね。 ジェンダー記号はひとつではなくいろいろあります。それらは単独で機能しているのではなく、けっこう体系的・複合的に機能しているということです。
三橋順子(性社会文化史研究者)