ステーブルコインが日本で大ブレークする兆し──世界を揺さぶる “デジタルマネー” が日本上陸【コラム】
「米ドル預金サービス」はグローバルサウスの特効薬
皮肉にも、西側の金融システムを作ってきた米資産運用会社の1社であるアライアンス・バーンスタインのゴータム・チュガニ氏(リサーチ部門でデジタル資産を統括している)は、ステーブルコインをこう説明する。 「世界中の人たちに新たな米ドル預金サービスを提供している。デジタルドル(ステーブルコイン)はアメリカを超え、世界中に広まった。また、暗号資産が取引される基盤(レール)で動くステーブルコインは、最安の決済手段となった」 同時に、米ドルと米国債を担保に作られているUSDTとUSDCが米国外で流通量を増やすことで、世界経済における「米ドル覇権」をさらに強めることになるのではないだろうか。 ニューヨークにある企業が東京の企業に5,000ドルを送金する場合、送金する側は取引銀行に手数料を支払い、受金する日本側の企業も国内銀行に少なくとも2,500円程度の手数料を払う。 現在の国際送金レールの仕組みは欧米が築き上げたもので、送金者と受金者のそれぞれの情報をスイフト(SWIFT)と呼ばれるネットワークでやり取りする。国際送金をする際、その取引を中継するのがコルレス銀行と呼ばれる大手銀行で、送金取引を行うたびに手数料を受け取る。米ドルのコルレス銀行は主にシティグループとJPモルガン・チェースで、日本では三菱UFJ銀行などがあげられる。 一人当たりGDPが日本の20分の1程度で、人口は日本のほぼ倍の2億3000万人のナイジェリアでは、個人事業を営む多くの人たちにとって数千円の送金手数料は重くのしかかる。
日本でも利用拡大を想定する米サークル
金融基盤と規制が整備され、銀行サービスが広く普及している先進国の日本や米国で、ステーブルコインは2025年以降どう受け入れられ、広がっていくだろうか? USDCを発行するサークルで、アジア太平洋地域を担当するヤム・キー・チャン氏は、「日本や米国、EU諸国においても、ステーブルコインはデジタル決済と送金を目的に広がっていく」と予想する。「決済処理コストは著しく下がり、クロスボーダー決済にかかるスピードは飛躍的に上がる。ステーブルコインは先進国の消費者と事業会社にとっても、魅力的な選択肢の1つになる」と、チャン氏は説明する。 チャン氏は米財務省でエコノミストとして働いた後にグーグルで約6年間働き、2023年にサークルに入社した人物だ。 USDCの日本での流通を始めようとしているSBI VCトレードの近藤 智彦社長も、チャン氏と同様の見方を示している。 近藤氏は、「日本でもUSDCを利用した国際送金の需要は個人、法人ともに強くなっていくだろう」と述べた上で、「インバウンド客が買い物に利用でき、国内の消費者は越境Eコマースサービス等を通じて購入決済に利用できるようになる。また、ゲームの中で利用できる決済手段としてのユースケースが考えられる」と話す。 一方、暗号資産を資産ポートフォリオに組み入れる機関投資家が欧州や中東、日本を除くアジアで増加傾向にあるなか、米ドルにペッグするステーブルコインを利用する大口需要家も増え続けている。 ブラックロックやフィデリティを筆頭に、米国の大手資産運用会社がこぞってビットコインの現物に紐づく上場投資信託(ETF)を作り、ちょうど1年前に米国の証券市場に初めて上場させた。 巨大な国際金融資本がファンドを通じて暗号資産市場に参入したことで、暗号資産にはまったく目もくれなかった機関投資家や個人投資家がビットコインETFを買い求めた。 機関投資家向けに暗号資産のトレーディングや資産運用サービスをグローバルに展開する某企業の経営幹部は、「USDTやUSDCが利用できない(日本の)市場では、暗号資産の取引を検討する一部の機関投資家でさえ動きは鈍くなるだろう。日本に大口需要家が参入できる市場を形成する上で、米ドルステーブルコインに加えて、日本円ペッグのステーブルコインも必要になってくる」と話す。