「女性脳」「男性脳」という考え方が、じつはシンプルに「間違いである」といえるワケ
わずかな性差は生まれつきか、環境の影響か
ここまで、大人を対象に、行動や能力、脳の構造や機能に性差があるかを見てきました。その結果として、性差は大きくなく、個人差のほうが大きいと思われること、しかしながら、一部の行動や脳には性差が見られる可能性が示されました。 ここからが、本書のメインテーマです。大人で見られる小さな性差は、生まれつきなのでしょうか、それとも、子育てや学校教育などの環境の影響なのでしょうか。どうやら、「女性脳」「男性脳」を主張する人、もしくは、そのような考えを受け入れる人には、性差があることは生まれつきのものだと考える傾向が強いように思います。女性の身体を持つから、生まれつき女性脳を持つという考えをするようです。 本書では、赤ちゃんや子どもを対象にした研究を概観する中で、行動や能力の性差が、どのくらい早い時期から見られ、どのような要因によって性差が拡大してくのかについて考えていくことになります。 先に簡単に結論を述べると、赤ちゃんや幼児期において、行動や能力にほんの少しの性差が見られます。ですが、より大事なのは、生物学的な要因や子育てや教育などの環境的な要因によって、このような性差が拡大していく可能性があることです。 読者の皆さんには、自分たちが何気なく行っている行動が、知らず知らずのうちに子どもの行動や性差を生み出している可能性について、ぜひ考えてみていただきたいと思います。 参考文献 ※7 Ruigrok, A. N., Salimi-Khorshidi, G., Lai, M. C., Baron-Cohen, S., Lombardo, M. V., Tait, R. J., & Suckling, J. (2014). A meta-analysis of sex differences in human brain structure. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 39, 34-50. ※8 Hirnstein, M., & Hausmann, M. (2021). Sex/gender differences in the brain are not trivial-A commentary on Eliot et al. (2021). Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 130, 408-409. ※9 Joel, D., Berman, Z., Tavor, I., Wexler, N., Gaber, O., Stein, Y., ... & Assaf, Y. (2015). Sex beyond the genitalia: The human brain mosaic. Proceedings of the National Academy of Sciences, 112 (50 ), 15468-15473.
森口 佑介(京都大学准教授)