画期的ビジネスモデル挑戦も…なぜ元WBO世界王者の伊藤雅雪がノーランカー三代大訓に敗れる”番狂わせ”が起きたのか?
プロボクシングの元WBO世界スーパーフェザー級王者、伊藤雅雪(29、横浜光)とOPBF東洋太平洋スーパーフェザー級王者、三代大訓(26、ワタナベ)のライト級10回戦が26日、東京の墨田区総合体育館で行われ0-2の判定で伊藤が敗れるという波乱があった。伊藤はフィジカルとパンチ力で優っていたが、三代の左ジャブに最初から最後まで苦しめられ、無策のまま僅差判定で敗れた。試合後、伊藤は「今後については考えられない」と自らの進退について語り、三代はOPBF東洋太平洋ライト級、WBOアジアパシフィック同級、日本同級の“3冠王者”吉野修一郎(29、三迫)への挑戦を訴えた。三代は10勝(3KO)1分、伊藤は26勝(14KO)3敗1分となった。
左ジャブで三代が支配
“番狂わせ“が起きる条件は揃っていたのかもしれない。 階級を一つ上げて、もう一度、世界王者返り咲きを望む伊藤にとって世界ランクのない三代とのマッチメイクはメリットのない試合だった。「ライト級ウォーズ」と呼んだ国内好カードの企画立案に、横浜光ジムの会長で“業界の革命児”と呼ばれる石井一太郎氏と共に自らも参画してクラウドファンディングによる資金調達や、既存のテレビ中継に頼らぬYouTube中継など、これまでの日本ボクシング界にない新しいビジネスモデルにチャレンジした。 「企画、演出、主演」は伊藤。 「僕が盛り上げた。華のある僕がいるからこそ成り立つ試合」の試合前コメント通りである。 格も経験値も違う。片やOPBF東洋太平洋スーパーフェザー級王者の三代は、失うものは何もない、名声も世界ランクも“ただ奪うだけ”の試合だった。 しかも、伊藤の目線は、三代戦勝利の前提で、ライト級“3冠”吉野との「ライト級ウォーズ」の第二章に向かっていた。こういうアンバランスなマッチメイクに、そういう油断とも驕りとも思えるような隙を見せると時にサプライズの風が吹く。 元世界王者が“下剋上”に屈する予感はあったのだ。 三代は第1ラウンドから左ジャブで主導権を握った。 ぴょんぴょんと飛び上がるような軽快なフットワークからスピードの乗った左ジャブで伊藤の顔面を正確に射抜く。伊藤は手が出ずペースを渡したが、第2ラウンドには、一発一発に力を込め強引に左、右ストレートと当て、三代のそれとは威力の違う左フックをお見舞いした。フィジカルとパワーでは伊藤が上回っていた。つかまえれば終わるーーそんな展開に思えたが、第3ラウンドは、また三代が恐れず左のジャブで支配した。 伊藤には、「(ジャブは)もらっていいや、みたいなスタイルがある」という甘い考えがあった。多少被弾してもパワーで押しつぶせると考えていたのである。 しかも階級をひとつあげたことで、これまで減量で「最後に1キロは筋肉を削られていた」というマイナスがなくなり、本来のパワーを発揮できる手ごたえもあった。