「着る服がない」のではなく「我慢して着ている」 障害者の悩みから生まれた「服のお直し」サービス 誰もが好きなスタイルを選べる社会へ
困りごとと技術をオンラインでつなぐサービス
――「キヤスク」ではどのようなサービスを提供していますか。 オンラインで障害のある方や病気の方のために既製服をカスタマイズするサービスを提供しています。現在、全国に15人の「キヤスト」と呼ぶお直しをしてくれるメンバーがいて、北は山形から南は熊本まで、様々な地域から参加してくれています。 サービスの流れは、まず、お客様がウェブサイトで依頼したいお直しのメニューを選びます。例えば、「前開きにする」「ファスナーを付ける」「ボタンをマジックテープに変える」などのメニューがあります。すると、そのメニューに対応できるキヤストが表示され、お客様が選びます。 選択後、システム上にチャットルームができて、そこでキヤストとお客様が細かい打ち合わせをします。この時、お客様の具体的な困りごとや希望を詳しく聞き取ります。キヤストは自身の経験も踏まえて、最適な提案をします。 お直しの内容が決まったら、お客様の服を宅配便の匿名配送でキヤストに送ります。お直しが終わったら、匿名配送でお客様に返送するという流れです。プライバシーを守るため、お互いの住所や氏名は開示しません。 ――どのようなお直しの依頼が多いのでしょうか。 様々です。腕が曲がらない方のためにTシャツを前開きにしたり、車椅子ユーザーのためにジーンズの背中を高くしたり。点滴を通せるようにシャツの腕にスナップボタンをつけることもあります。服の素材や柄に合わせて、最適な方法でお直しをおこないます。 大切にしているのは、できるだけ元のデザインを活かして、お直しをしても普通の服に見えるようにすることです。例えば、ボタンを外してマジックテープにする時も、見た目はボタンが留まっているように工夫します。これは、お客様の「普通の服を着たい」という願いに応えるためです。 また、せっかくのサービスでも高額では利用しづらいですから、Tシャツを前開きにお直しする場合は1650円、パンツを両足横開きにお直しする場合は3960円などできるだけ手頃な価格で提供するようにしています。さらに、料金を明確に提示することで、お客様が安心して依頼できるようにしています。 ――お直しをおこなう「キヤスト」はどのような人たちなのでしょうか。 背景は多様で、半分以上が障害のあるお子さんのお母さんです。自分の子どものために服のお直しを覚えた方々ですね。その経験を活かして、同じような悩みを持つ人々を助けたいという思いで参加してくれています。 ほかにも、現役で縫製の仕事をしながら副業で参加してくれている人、子育て中でハンドメイドが好きな人、昔、縫製の仕事をしていて子育てが一段落した60代の人など、本当に様々です。中には、キヤスクのクラウドファンディングを見て「自分もこの活動に参加したい」と名乗り出てくれた人もいます。キヤストの方々は皆、自宅で空いている時間に作業をしています。 多くのキヤストが、自身も同じような悩みを経験しているので、お客様の気持ちがよくわかります。そういう意味で、お客様に寄り添った対応ができるのが、このサービスの大きな特徴だと思います。 また、キヤストは単にお直しをするだけでなく、お客様の生活や悩みに合わせた提案もしています。例えば、「この服のこの部分をこう直せば、もっと着やすくなりますよ」といったアドバイスもおこなっています。これは、キヤスト自身の経験や知識があってこそできることです。