パレスティナ問題に考える歴史的ルサンチマン(下) 近代日本政治の振り子
パレスティナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエルの大規模な衝突が始まって2ヶ月以上が経過しました。国連安全保障理事会は22日、ガザでの人道支援拡大を求める決議を採択しましたが、難民キャンプに爆撃があるなど、攻撃は広がっているようです。 建築家で、文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏は、パレスティナをめぐる問題の根源には、人類が生態として推し進める都市化とそれに対するルサンチマン(怨念)があるといいます。それは近代日本政治にもあてはまると考えているようです。若山氏が独自の視点で語ります。
ルサンチマンの振り子
新聞紙面やテレビ画面に「安倍派一掃」の文字がおどった。しばらく前は「安倍派一強」の文字だったのだから、マスコミの論調も、国民の感情も、振り子のように揺れ動いたのである。「政治的振り子現象」といっていい。個人の感情と同じように、政治に対する国民感情も右に左に揺れ動くものだ。 このパーティー券問題はずいぶん前からのことだという。地検特捜部の捜査が今入ったのにはそれなりの理由と根拠があると思われるが、そのうしろに国民感情があるとすれば、物価の高騰と、防衛費や脱炭素対策費や少子化対策費で、やがて異次元の増税を覚悟しなければならないときに、政治家がこれでいいのかという憤りだろう。またそこには政府だけでなく、安倍派と安倍政治に対する国民感情も反映されているように思える。 もともと安倍政治は、それまでの政権とは違ってハッキリした方向性をもっていた。「一強」と呼ばれるだけの力を発揮しそれなりの支持もえていた。しかし森友学園問題以後、特に赤木さんの自殺があってから批判が多くなった。凶弾に倒れたときは同情もあり偉大な元総理として国葬にふされたのだが、次々と暴かれる旧統一教会との深い関係から、さらに今回のパーティー券の問題から、「安倍元総理とは、安倍派とは、こんなものだったのか」という空気に変わっていく。官邸の意に沿わない官僚を更迭して霞が関の恨みをかったという人もいるが、仏教でいう因縁めいたものさえ感じさせる。 考えてみれば、このところ、日本の政治状況は安倍政治に対する国民感情の揺れ動きに左右されてきたというべきかもしれない。 本論は、イスラエルとパレスティナの対立の背後には歴史的な「都市化のルサンチマン(怨念)」があるという立場から、(上)では、古代ローマ帝国という都市化のシステムに対するルサンチマンとしての一神教の成立を論じ、(中)では、近代資本主義という都市化のシステムに対するルサンチマンとしての社会主義の誕生と変遷を論じてきたのだが、今回はこの論理を日本の近代史に当てはめてみたい。その都市化のルサンチマンに政治的振り子現象がよく見てとれるのだ。