パレスティナ問題に考える歴史的ルサンチマン(中) 空想的社会主義、科学的社会主義に続くのは地球的社会主義?
パレスティナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエルの大規模な衝突が始まって2ヶ月以上が経過しました。イスラエルのネタニヤフ首相が12日、イスラエルとパレスチナの共存を目指した過去の合意を拒否する立場を強調するなど、事態は混迷の度を深めているようです。 建築家で、文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏は、パレスティナをめぐる問題を、人類が生態として推し進める都市化とそれに対するルサンチマン(怨念)を元に考えます。若山氏が独自の視点で語ります。
資本主義に対するルサンチマン
僕は台湾で生まれた。すでに戦後であったが、父が台湾電力の発電所の技術責任者だったために、引き揚げが遅れているあいだに生まれたのだ。あるとき、自分が誕生した日の日本の新聞を調べてみたら、一面トップは「2・1ゼネスト」にかんする記事であった。戦後の混乱期、日本には社会主義に向かう空気が広がっていて、全産業における一大ストライキの計画をマッカーサーが止めようとしていたのである。 やがてGHQの占領方針は、日本を民主化することから共産主義の防波堤とすることへと転換する。以後、労働争議が頻発し、安保闘争へと向かう。いわゆる冷戦時代であり、日本国内でも親米と親ソが激突していたのだ。 冷戦とは、資本主義陣営と社会主義陣営の思想的抗争であるが、現実には、大国とその周辺国の領土的経済的利害の衝突であり、どちらの側も民主的であることを標榜した。 前回も述べたように、人間は都市化する動物である。それは不可逆的で加速度的な現象で、人間とその集団は、都市化を推し進めると同時に、それに逆行(抵抗)する心性すなわち都市化のルサンチマン(怨念)を有する。というのが僕の基本的な考え方である。
ルサンチマンとしての一神教と社会主義
前回は古代「ローマ帝国」が、巨大で苛烈な都市化のシステムであったことから、そのルサンチマンとして、ユダヤ教が強化され、キリスト教が拡大し、イスラム教が生まれ、一神教の時代が到来したと論じたのであるが、ここでは「資本主義」という都市化のシステムについて論じたい。 端的にいえば、16世紀前後、西欧の植民地主義がオランダやイギリスの東インド会社を生み、19世紀前後、蒸気機関の発明による近代工業の発達が英米を中心とする帝国主義を生んだ。資本主義の歩みは、西欧の植民地主義、英米の帝国主義と、分かちがたく結びついている。 石炭や石油という化石燃料が投入されることによって、人類の工業生産と都市化の力は強く加速された。工業資本主義は都市化の加速装置であり、そこに生じるルサンチマンもまた加速される。古代ローマ帝国の巨大で苛烈な都市化のシステムに対するルサンチマンとして一神教が誕生したように、近代資本主義の巨大で苛烈な都市化のシステムに対するルサンチマンとして社会主義が誕生した。 初期(18世紀末から19世紀初頭)の社会主義は理想主義的なものであった。アンリ・ド・サン=シモン(協同的友愛社会を提唱)、シャルル・フーリエ(農業共同体を提唱)、ロバート・オーウェン(協同村ニューハーモニーを提唱)の時代で、その主役の多くは資本主義の成功者の子弟であった。彼らの富裕な消費生活と労働者の過酷な生産現場とのギャップが、憐憫の感情と贖罪の欲求を生み、すべての人々が豊かに暮らせる「理想社会=理想都市=ユートピア」の実現を夢見たのだ。これは、ローマ帝国の内部に広がったキリスト教のように、都市化のルサンチマンの「内部の贖罪」パターンである。