ついに世界へ。なぜロンドン五輪銅メダリスト清水聡は21歳ホープ森武蔵を打ち破りアジア“最強”ベルト統一に成功したのか?
大橋陣営の“参謀”松本トレーナーが「中間距離で戦え」「距離を取れ」と指示。そして同時に森武蔵も「パンチが届くのではないか」と超接近戦から戦術を転換してしまった。 清水のポテンシャルが解き放たれた。 右のジャブを当て身長差を生かす打ち下ろしの左。距離が少しつまると左右のアッパーをガツガツとお見舞いした。ここからリズムもペースも一気に清水へと傾く。 「途中まで実力を発揮できなかったが、ロングに距離を切り替えてから自分のペースに持ち込むことができた。アマチュア経験が長かったおかげ」 ボクシングとはあらゆる手段を使いペースを奪いあう知的ゲームである。 森武蔵も「あのジャブが嫌だった」と狂い始めた流れを止められない。8ラウンド終了時点の公開採点は「78-74」が2人、「77ー75」が1人で清水が優勢となった。清水のパンチは「ダイヤモンドレフト」と称され、対戦相手、あるいはスパーリング相手が「こんなに硬いパンチは経験がない」と驚くほどのパンチ力を誇る。アッパーを何発も何発も、森武蔵の顎に命中させた。それでも森武蔵の血走った目は死ななかった。 「結構アッパーも当たっていたけど顔色が変わらない。なんかゾンビみたいに怖かった。 僕のパンチは相当、硬いと思うんだが…」 10ラウンドに入ると清水はフットワークを使い始めた。強引に左ストレートを狙い一発逆転を狙う21歳は、清水の老獪なテクニックの前に空回りした。 「終盤に疲れてくればクロスが当たるはず」 森武蔵は、そう考えていたが、序盤の超接近戦で削ったはずの清水のスタミナは、化け物のように無尽蔵だった。 逆に身長差で頭を押さえつけられ、密着戦の中でラビット気味のパンチをコツコツと打たれた森武蔵の方が、逆転のパンチを失ってしまっていた。 清水は、「チャンピオンズラウンド」と呼ばれる未体験の11、12ラウンドも、したたかに、そして華麗に舞い続けた。あえて無理はしなかった。 「残り3ラウンドあった。ガソリンがなくなり失速すると向こうがいつ息を吹き返してくるかわからなかった。これがボクシング」 揉み合った状態で、最終ラウンドの終了を告げるゴングが鳴った瞬間、清水は、ポンポンと2度、森武蔵の肩を叩き、喜びを表現しないまま、疲れ果てコーナーの椅子に座り込んだ。 森武蔵はコーナーで天を仰いでいた。 もう判定結果を聞くまでもなかった。「116-112」が1人、「118-110」が2人の圧勝のスコア。清水はリング中央に歩み出て両手を突き上げた。 「勝つことだけに徹した。納得のいく勝ちではないが、いい経験になり成長のできた試合だった。初の12ラウンドはきつかったが、これがプロなんだと実感した」