なぜ京都サンガは12年ぶりのJ1昇格を果たせたのか…パワハラ退任の過去がある指揮官が植え付けた挑戦のメンタル
ひたすら本数を課すシュート練習に、こぼれ球に逆サイドから詰めさせるメニューも追加した効果はてきめんだった。2-1で千葉を下し、今シーズンのホーム初勝利をあげた4月4日を、曹監督は「今年のサンガが進むべき道が示された」と位置づける。 前半33分の先制点は敵陣の中央でボールを奪った松田が、ウタカとのワンツーからニアサイドへ飛び込んで泥臭く押し込んだ。後半23分の追加点は自陣からウタカがロングカウンターを発動させ、相手ゴール左までドリブルで突破。繰り出された横パスを、50m近い距離を全力でフォローしてきた21歳のMF福岡慎平が押し込んだ。 千葉戦からマークした破竹の6連勝を含めて、京都はクラブ新記録となる15戦連続無敗(11勝4分け)と一気にギアアップ。同じくクラブ新記録となる6試合連続無失点を達成するなど、総失点31はリーグ最少、総得点59もリーグ6位タイと攻守で安定感をキープしながら、一度も連敗がない軌跡とともに2位を確定させた。 その千葉のホームに乗り込んだ再戦で成就させたJ1昇格を、曹監督は「何かの縁を感じますね」と感慨深げに受け止めた。直近の3試合を振り返れば、優勝したジュビロ磐田との頂上決戦で0-1と苦杯をなめさせられ、秋田には借りを返したものの、勝てば昇格決定だったファジアーノ岡山との前節もスコアレスドローだった。 迎えた24日の練習前に、指揮官は意外な言葉を選手たちに伝えた。 「自分は歴史を背負えない」 歴史とは京都がJ2でもがき続けた11年間であり、もっと言えば1922年創設の京都紫光クラブを前身に持つ、古都・京都で紡がれてきたクラブの軌跡となる。 「3、4試合前までは『J1に昇格できなかった歴史』や、あるいは『京都にふさわしく』と考えていたけど、実はすごく違和感があった。自分はスーパーマンではないし、京都の下鴨神社の近くで生まれ、高校を卒業する18歳まで住んでいたと言っても、この11年間は何もサンガに関わっていなかったので、はっきりと言おうと」 選手たちへかけた言葉の意図をこう明かした曹監督は、その瞬間から「選手たちが感じていた(昇格への)重みが少し取れた、という印象があった」と振り返る。 「人間とは思いをはっきりと言うことで、伝わる力が3倍にも4倍にもなると、この歳になってあらためて感じている。自分に歴史を背負う力がないことはわかっていたけど、その分、選手たちが一歩一歩前へ進むことには力を貸せるとあらためて思い直し、伝えたことが今日の選手たちのパワーにつながったとすればよかったと思っている」 時間を置いて敵地で始まった胴上げは、たった2回で終わった。胴上げの輪に加われなかった20歳のMF川崎颯太が、曹監督の体重が重すぎたからだと明かした。 「(みんなが)だいぶきつそうだった。これを機にちょっと痩せていただけたら」 こんなやり取りを聞くだけで、故郷で再出発を期した指揮官を中心にいい関係が築かれていると感じさせる。その曹監督は、すでに未来を見すえている。 「僕自身もチームも(J1昇格は)目標ではなく通過点だと思っているので」 ホームにツエーゲン金沢を迎える12月5日の最終節を経て、来年2月に幕を開けるJ1での戦いへ。歴代最多タイとなる4度目のJ1昇格とともに、手腕をあらためて証明した曹監督を中心とする新生サンガは、右肩上がりの軌跡を描きながら全力で走り続ける。 (文責・藤江直人/スポーツライター)