なぜ京都サンガは12年ぶりのJ1昇格を果たせたのか…パワハラ退任の過去がある指揮官が植え付けた挑戦のメンタル
「彼は本当に強い選手で、逆境に直面したときも自分のプレーができないときも、1ミリも他者のせいにしない。彼の一番のストロングポイントが京都を変えていき、京都の基準になってほしかった。話はあまり上手くないけど、若い選手やいままで京都にいた選手にとって、彼の精神的な強さは非常にいい影響を与えてくれた」 累積警告で出場停止となった1試合を除いて、松田はチーム内で2位タイの40試合に出場。プレー時間も同4位の3292分を数えてきた過程で、指揮官が編み出した今シーズンのテーマ『HUNT3』をピッチ上で具現化させ続けた。 テーマには「勝ち点3を狩りにいく」という意味に加えて、実は『High-Intensity』『Ultimate』『Newborn』『Tough』の頭文字で構成されている。 それぞれは「強度の高いプレー」「勝利への究極のこだわり」「新たにチャレンジしていく」「タフに」を意味している。指導者として再出発のチャンスを与えてくれた京都での戦いにおいて、曹監督が選手たちに求める覚悟と決意が投影されていた。 キャッチーな言葉を介して選手たちの意識に働きかけていく指導方法は、例えばサンフレッチェ広島時代にJ1得点王を獲得した37歳のベテラン、元ナイジェリア代表のFWピーター・ウタカをポジティブな形で、しかも内側から変えている。 22ゴールでJ2得点王を獲得した昨シーズンに続き、今シーズンもリーグ2位の21ゴールをマークしているウタカは、最前線からの守備も惜しまなくなった自身の変化を「監督はメンタリストだと思う」と指揮官の手腕だと打ち明けている。 「みんなのメンタルを操るのが本当に上手い。以前は『ディフェンスをしない』とか『ディフェンスができない』とよく言われた自分を変えてくれた。自分だけでなく、すべての選手のいい部分を引き出すところに非常に長けている」 京都の伊藤雅章社長も「選手たちが躍動して自主性を発揮する、チャレンジするチームを作ってくれた」と称賛したなかで、ピンチに直面した時期もあった。 18本ものシュートを浴びせながら最後までゴールを奪えず、J3から昇格してきたブラウブリッツ秋田に0-1で敗れた第5節。ホームのサンガスタジアム by KYOCERAに千葉を迎える続く第6節も続けて落とし、2勝1分け3敗と黒星を先行させていたら――その後に待っていたかもしれないシーズンを曹監督はこう想像する。 「そのままズルズルと自信を失っていった可能性もあると思っている」 千葉戦へ向けた練習で、指揮官はあえて精神的な部分を強調した。 「ボールに魂を乗せていかないと、自分たちのやりたいサッカーが証明されない。いいサッカーをしたけど点が入らなかった、では絶対に上へあがれないし、強くなれない」