アンティーク着物からヒジャブを作る日本人女性の挑戦 ── 相互理解のために非イスラムの私ができること
着物+ヒジャブ=アップサイクル
個人の小さなオンラインショップを探し当てて購入してくれる人が増え、そのうちに「作ってくれてありがとう」という声が寄せられるようになった。日本の伝統的な着物の色柄は海外で人気が高く、プレゼント用に購入する人も多いという。 「いかにも日本らしいモチーフが好まれますが、日本では定番でもイスラム教では宗教的にそぐわない絵柄も少なくありません。日々学びながら、試行錯誤しています」 着物は、なじみの古着屋を巡って仕入れる。小林さんがヒジャブに向くと感じるデザインは一般的な「売れ筋」ではないため、買い付けに行くと喜ばれるそう。アンティーク着物を使ったヒジャブ作りはアップサイクルで環境にやさしく、時代に即している。
同じ色柄はない“一点物”
仕入れた着物はまず、全ての糸をほどく。すると、大きさはまちまちながら9枚ほどに分解できる。ヒジャブにするのは表地だけで、裏地は使わない。 着物は大抵、絹素材で繊細なため、基本的には水のみで手洗いする。汚れがひどいものは洗剤を少量使ったり、しみ抜きをしたりと手間がかかる。陰干しし、乾いたら再度洗い、アイロンをかける。傷んだ部分などを除いて裁断。状態にもよるが、ヒジャブに適したサイズが5枚から10枚ほど取れる。 ここから、デザインを検討する。同じ着物はないため、いずれも“一点物”だ。「どの色と合わせようか、生地の薄さは…などと考えるのが、いちばん楽しい作業ですね」
動画を転機に大ヒット
2020年4月、新型コロナウイルスの感染拡大により緊急事態宣言が発令されると、訪日観光客は激減。小林さんも混乱の中で体調を崩したが、「誰かが喜んでくれるかぎり」との思いで地道に製作を続けた。22年5月、東京・多摩のアンテナショップに出店、実店舗の販売を開始した。観光客が戻ってきた23年、東京・原宿の観光案内所に商品を置いたところ、人気が上昇。その年末に、さらなる転機が訪れた。 「たまたま制作に協力した訪日観光客向けの動画が、爆発的にヒットしたのです。12月30日に公開されたと思ったら、年明け1月2日、原宿の店舗から在庫切れの連絡が入りました。そこからは、目の回る忙しさで」 「春頃まで、ほとんど寝ていなかったね」と、夫の慶太さんが言葉を継ぐ。慶太さんは、情報関連の会社で営業を担当する。渉外能力を生かし、妻をサポートするようになったという。