アンティーク着物からヒジャブを作る日本人女性の挑戦 ── 相互理解のために非イスラムの私ができること
「ヒジャブは皆のものだから」
小林さんは2012年、夫の赴任に同行して暮らした上海で、正反対の体験をした。反日運動が活発化し「日本人と分かる格好で外に出ないほうがいい」と警戒感が高まっていた。ところが、街の人は皆温かく、「報道と実態は異なる」と強く感じた。 ヒジャブを通じて交流する機会がなかったら、自分もイスラム教徒を誤解していたかもしれない。知識不足が偏見を生んでいるのではないか。 「自分は、家に仏壇はあるものの、さほど強い宗教観を持ち合わせていません。イスラム教の持つ神秘的な雰囲気と、ファッション性に引かれてヒジャブを作り始めましたが、イスラム教徒と勘違いされることもあり、『ムスリマでない私が、ヒジャブを作ったり身に着けたりしてもいいのか』という疑問を常に抱えていました」 そうした迷いを吐露すると、ムスリマたちは口をそろえて「ヒジャブは皆のものだから」と後押ししてくれた。誰が作っても、誰が着けてもいい。イスラム世界は思っていたより間口が広かった。悩みが吹っ切れると同時に、「イスラム教徒は怖い存在ではない。日本人が抱きがちな先入観をなくしたい」という思いが強まった。
カジュアルに着物を楽しむ「紗」
高温多湿なマレーシアで見たヒジャブは、サラリと軽やかなシフォン生地が使われていて、流れるようなドレープが美しかった。 日本の着物にも、蒸し暑い夏に適した薄手の織物がある。それが「絽(ろ)」と「紗(しゃ)」だ。紗のほうがよりサラサラで通気性が高く、透け感が強い。絽は正装用なのに対し、紗はカジュアルな装いに向く。 着物を普段から着る人は、日本人ですら多くない。着物をヒジャブに仕立てればもっと気軽に身につけられるが、着物地は厚くて重いのが難点だ。「シフォン生地と組み合わせ、サラサラした軽いヒジャブに仕立てることで、誰もが着物の美しさをカジュアルに楽しめるはず」 小林さんの描く着物ヒジャブのコンセプトに、サラリとして普段使いに向く「紗」の持つイメージは、ぴったりだった。店名を「紗紗 xiaxia hijab Japan」(以下、紗紗)とし、旅行からわずか9カ月でオンラインショップを立ち上げた。