北アルプスに「伝説の登山道」、父の遺言で40年ぶりに復活 「まさに秘境」急流渡り、岩上り、温泉の噴気、急登…その先に絶景が
▽新道を守り、残していく 三俣山荘を営む圭さんや敦子さんらは、再開させた新道の「次の展開」へと動き始めている。敦子さんらは以前の新道が廃道になった後も、第5つり橋から山荘へと続く原生林の道草刈りや拡幅作業を毎年続け、大切に整備していた。義父の正一さんが築いた「大好きで大切にしている場所」だからだ。 新道を維持管理するには人手がかかるため、今後は「協力者によるサポート体制が必要」と話す。そこでボランティアツアーを行うガイドチームを編成したり、沢に整備拠点を兼ねる避難小屋の建設を計画したりしている。 多くの人に楽しんでもらうためには、課題もある。湯俣温泉へつながる麓の七倉登山口(大町市)の交通アクセスが悪いことだ。昨年には大町市や環境省などと観光振興についての勉強会を実施し、JR信濃大町駅と登山口を結ぶバスの定期運行を実現させた。「これだけの観光資源があるのにもったいない。麓の大町市に予算など働きかけたい」
【取材後記】安全に冒険を楽しむために 新道の開通期間は湯俣川の水位が下がる8月20日ごろから小屋締めの10月末まで。今年は冬の積雪が少なかったことで沢の水位が低く歩きやすかったが、田村さんによると「来年も登れるとは限らない。山荘やガイドに問い合わせてほしい」 新道の魅力について、田村さんはこう表現していた。 「地球のエネルギーをもらえる場所。体は疲れても心は満たされる」 確かに、片道約10時間歩いて酷使した脚は筋肉痛だし、一眼レフなど重い取材道具を背負ったせいで休日の登山より疲労感は倍増だ。でも、大きなタマネギ型の噴湯丘や槍ヶ岳の絶景など、新道ならではの景色を味わえた。「伝説の登山道を登ったぞ」と充実感もひときわ。田村さんの言葉の意味が分かった気がした。 一方で、本物の冒険には大きなリスクもつきまとう。山荘は装備不足で行動不能になるケースが起きているとし、ヘルメットや全身がぬれた時の着替え、野営装備などを持つように呼びかけている。私は他にもゴム底の沢靴やスパッツ、ハーネス、沢に落ちても荷物がぬれない防水カバーなどの装備をそろえて挑んだ。10月は気温が低く、沢登り後に足元がぬれた状態で歩くと体が冷える。途中で履き替える登山靴や靴下も多めに用意した。水量や季節に合わせた装備の選択が大切だ。また、経験や技術に不安がある人は経験者やガイドの案内が必要になる。2人以上で新道を往復する場合、ガイド費用は1人7万円前後になる。