北アルプスに「伝説の登山道」、父の遺言で40年ぶりに復活 「まさに秘境」急流渡り、岩上り、温泉の噴気、急登…その先に絶景が
食堂にはミラーボールやDJブースが登場し、ここは本当に山かと疑うような都会的な雰囲気に。老若男女がお酒を手に「山」という共通の話題に花を咲かせる。 友人と2人で新道を登った神奈川県の30代男性会社員は「唯一無二の秘境」と絶賛。「開拓されていない感じが冒険心を駆り立てられる」。道中に出会った単独の登山客は、川を渡れず引き返していったという。 ガイドの田村さんは、このコースの危険性をこう説いた。「上級者向けで、幅広い判断が求められる」。落石の恐れだけでなく、ルート付近にある噴気地帯で水蒸気爆発が起きれば熱水が噴き出して水位が上昇し、半日ほど身動きが取れなくなる。野営が必要だ。 ▽自然のパワースポットはタマネギ型 2日目は窓に雪が張り付くほどの吹雪で、山行は危険と判断し、1日停滞することになった。幸い3日目は天気が回復した。午前7時ごろ、圭さんの妻・敦子さんらに見送られて山荘を出発した。
前日の雪であたりは銀世界。空気もつんと凍っているが、歩くと体が温まってきた。道すがら、温泉沈殿物が固まった白いタマネギ型の噴湯丘を訪れた。人の背丈ほどの大きさで、国の天然記念物に指定されているという。温泉水でカメラが曇るほどの湯気が立ちこもる。自然の「パワースポット」だ。 ただ、田村さんによると登山客がよじ登るなどし、噴湯丘が崩れつつある。離れた場所から大切に楽しみたい。 午後3時ごろ、標高1534メートル地点の湯俣温泉に到着。ここに立つ湯俣山荘は今年、新道の復活に合わせて40年ぶりに再建された。内装は新しく、水洗トイレも完備されている。おまけにバーカウンターまであり、「これが最先端の山荘か」と驚いた。 管理人の野沢優太さん(30)は「やっとお客さんに見せられる姿になった」とにっこり。バーの営業を通して、客同士の交流の場を作りたいという。 湯俣温泉を後にして午後5時半、登山口にたどり着いた。行動を共にしたガイドの田村さんらと別れると一気に現実に引き戻される。3日間たっぷり自然を味わい、また頑張ろうと思えた。