なぜ「名古屋めし」は味が濃い? 味噌カツ、ひつまぶしに共通する“日本人ならでは”の味からひも解く
◆味噌が根幹を成す名古屋めしのうま味
日本人が世界に先んじて着目していた「うま味」。名古屋では、伝統的にこのうま味がとびきり濃い調味料が使われています。 そう、味噌です。一般的には「赤味噌」「八丁味噌」と称される名古屋の味噌は、より正しくは「豆味噌」という種類に分類されます。 日本中のほとんどの地域では米味噌が食され、九州など西日本の一部は麦味噌が好まれます。対して豆味噌は、生産も消費も名古屋をはじめほぼ東海3県(愛知・岐阜・三重)に限定されます。 この豆味噌が他の味噌と一番違うのが「うま味」の濃さ。うま味成分であるグルタミン酸が、米味噌、麦味噌のおよそ2倍も含まれているのです。 さらに名古屋では「溜まり醤油」も好んで使われます。溜まり醤油は、もともと豆味噌の醸造過程でにじみ出た液体をしぼり出したものが始まり。そのため豆味噌同様にうま味が濃いのが特徴です。 味噌と醤油は和食の味つけの基本となる調味料。それぞれ、うま味がとびきり濃厚なのですから、必然的に名古屋の料理はうま味が濃くなります。 そして、それを子どもの頃からずっと食べ続けている名古屋人は当然、うま味嗜好となります。すなわち、うま味が濃い食べ物がおいしい、と感じる味覚が知らず知らずのうちに育まれていくわけです。 この名古屋人のうま味嗜好にのっとって作り出され、好まれ、広まった食べ物が名古屋めしです。 豆味噌や溜まり醤油を使わない料理ももちろんありますが、肉や野菜をじっくり火にかけてうま味を凝縮する台湾ラーメンやあんかけスパゲティなどは、やはり総じてうま味が濃いという特徴を持っています。
◆「うま味」は日本の食の最大の特徴
このうま味の濃さ、名古屋めしだけの特徴かというと決してそんなことはありません。先にも紹介した通り、「うま味」を発見したのおよそ100年前の日本人。日本人は古来うま味を好み、大切にしてきた民族です。 筆者は2015年、万博史上初めて「食」をテーマに開かれたミラノ万博を取材しました。 2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に認定されたこともあって、日本館は屈指の人気パビリオンだったのですが、その展示の中にこんな記述を見つけました。 「『うま味』は世界へ 日本特有の急峻な地形を流れる豊富な水は、ミネラル分のほどよい『軟水』をもたらし、昆布や鰹節から『うま味』を引き出す『出汁(だし)』の文化を育んできました。 『うま味』は日本で発見された『甘味』『酸味』『塩味』『苦味』に次ぐ第5の味。 うま味物質には減塩機能があり料理のおいしさを損なうことなく、健康的でおいしい食生活を楽しむことができます。少ない脂質や糖質でも満足感が得られ、過食も抑えられます」 ヘルシーだと世界中から注目を集めている和食。その特徴、魅力が「うま味」だと、万博の展示でも世界に向けてアピールしているのです。