ホテルベーカリーの本気を見た! 究極のしっとり、高級生食パン 品川プリンスホテル
連載《hotel TIPS》Vol.23
編集長がホテルのおいしいものや楽しみを探しに行く「hotel TIPS」。2019年のブーム以来、広く親しまれるようになった高級食パンの逸品を取り上げます。当時、火付け役となったのは、生でもおいしく食べられるという触れ込みの食パンで、街中のあちこちに専門店ができました。 【1分動画・写真はこちら】パンができるまで…見れば「究極のしっとり」の秘密が分かるかも ベーカリーシェフは何を語る? この「生食パン」を、研究を重ねた末にホテルならではのクオリティーに仕立て上げたのが品川プリンスホテル(東京・港)です。今では首都圏にある他のプリンスホテルでも販売する自信作、いったいどんな味わいなのでしょう。
■素材の配合突き詰め 水は「南魚沼」から
「ブーランジュリーシナガワ」に並ぶ高級食パン「み乃里」は1.5斤のお値段が1420円。スライスすると中はふわっふわで、口にいれると芳醇(ほうじゅん)な香りと甘みが広がります。きめ細やかなパン生地はとろけるよう。 これをトーストしてみれば、かりっとした耳の香ばしさと中に閉じ込められた水分のバランスが絶妙で、生食とは全く異なる味わいと口当たりを楽しめます。 「こだわりのポイントは生クリームです。1キロの小麦粉に対して500ccの割合で使います」とベーカリーシェフの安村洋介さん。なるほど、芳醇な香りの正体は生クリームだったのですね。「しっとり感を出すために、生クリームと蜂蜜、水あめ、新潟の南魚沼の水、この4つの材料を使うんですよ」 5年前に巻き起こった生食パンのブームはホテル業界にも及びました。安村さんによれば、腕利きのパン職人はまずフランスパン、次に食パンを究めるといいます。当時、人気を呼んだ生食パンは、従来の食パンとは少々異なり、生地のしっとり具合が風味を左右する商品。そんな異質さがプロの研究心を刺激しました。
■生地にやさしい製法 「低反発」を実現
「普通の食パンを指で押すと、くぼんだ部分が元にもどります。でもこのパンは指の跡がしばらく残るぐらい、しっとりしているんです。この水分量の調整が難しく、ベーカリースタッフみんなで意見を出し合って試食を重ね、もっとしっとりさせよう、もう少し甘みを出そうと試行錯誤しました」 たっぷり水分を含んだパン生地はとにかく柔らかです。機械でこねる際にはゆっくりと低速でミキシングして発熱を防ぎ、生地がダレないよう細心の注意を払います。成形する時は極力やさしい手つきで丸め、特別な機械にかけてガス抜きをします。 「生地への負担を最小限にすることを心がけています」。オーブンの温度設定は普通の食パンよりも40~50度低い160度くらいに抑え、水分を飛ばし過ぎないようにして、じっくり焼き上げるのです。