出来立て和菓子とお茶のコースを提供する「九九九」に行ってみた!特別な和菓子体験にうっとり
2024年11月28日、出来立ての和菓子とお茶のペアリングをコースで提供する「九九九」(くくく)が、東京・六本木にグランドオープン。この店では、旬の良質な素材を使い、目の前で仕上げる繊細で華やかな和菓子を主役とした特別なペアリングコースが楽しめる。 【写真】最初に提供された京都宇治田原町産「ごこう」品種の玉露 今回は、筆者が先行試食会に参加し、季節のコースを体験。出来立ての和菓子の感想や、おすすめのポイントを紹介する。 ■季節を感じるペアリングコースを体験![/HEAD] 今回注文した「11月のコース」(1万9800円/別途サービス料10%)は、“装う山々から玄冬へ”がテーマになっており、山々が赤や黄色に色づいたあと枯葉になり、冬の訪れを迎える様子を表現。和菓子やお茶にはその季節ならではの味わいが楽しめるよう工夫されており、訪れるたびに季節の変化を感じることができる。 最初に提供されたのは、京都宇治田原町産「ごこう」品種の玉露。氷出しによって苦味が抑えられ、旨味が一層引き立つ仕上がりとなっている。飲み干したあとには、深い旨味の余韻が喉元に残り、次のひと口への期待感を高めてくれる。 次は、イノシシの形をした「亥の子餅」。この時期、茶道の世界では「お茶のお正月」と呼ばれるほど重要な行事が多く、そのひとつに、寒くなった季節に炭を使い始める「炉開き」がある。亥は陰陽五行説で“水”を意味し、火災を防ぐ縁起物として食べられてきた。「亥の子餅」は、そんな背景を持つ縁起のよいお菓子だ。餅の中にはクルミとイチジクを詰めた餡が詰まっており、出来立ての柔らかい食感が口の中でとろけていく。 ペアリングは、「九九九ノ煎茶 侘び」。お茶の苦味と和菓子の甘さが見事に調和し、その深い味わいを存分に楽しむことができる。 3品目の「氷炉」は、和菓子の枠を超え、茶道の精神に根ざした芸術的な逸品。この和菓子は、炉に炭が入っている情景をテーマに作られており、その深いテーマ性も印象的だ。 コースの主役は、かき氷のように仕立てられた炭アイス。アイスには特製の「炭油」がかけられ、炭の芳醇な香りと光沢が加わることで見た目と風味が一体となり、香ばしさと美しさを堪能できる。 ペアリングとして提供された「ミント煎茶」は、炭油の濃厚さに爽やさをプラスし、次の品に向けて整える役割を果たしている。冷たいアイスが口内を鎮めることで、コース全体の流れに絶妙な変化をもたらしてくれた。 5品目の「柿釜羹」は、柿そのものの魅力を最大限に引き出した和菓子。柿と砂糖のみで仕上げられ、その自然な甘味を活かしている。柿に含まれる「ペクチン」という成分を巧みに利用し、素材の力だけで完成させる職人技が光る和菓子だ。 仕上げに添えられた八角の琥珀糖は、風味と食感をより際立たせる。霜が降りたような見た目は、晩秋から初冬への移ろいを感じさせる意匠が施されており、視覚で楽しめるのもポイント。 合わせるお茶は「黒文字茶」。そのさっぱりとした風味が、「柿釜羹」の濃厚な味わいを引き締めている。 6品目の「山景色」は、芋の香りと旨味を最大限に引き出した焼きたての和菓子。目の前で丁寧に焼き上げられていく和菓子を見ると、心もあたたまっていく。特に、芋の皮には香ばしさと風味が凝縮されており、その皮を残すことで独特の味わいに。鳴門金時の皮を活かし、中には紅はるかの羊羹を詰めることで、おいしさと見た目の美しさが両立した和菓子に仕上げられている。 合わせるお茶は「栗焙じ茶」。栗の鬼皮をローストして長時間煮出した煮汁を、佐賀県産の焙じ茶とブレンドし、深い香りとコクを生み出している。芋と栗という秋の味覚同士を組み合わせるアイデアにより、この素晴らしいマッチングが誕生している。 7品目の「寒椿」と名付けられた練り切りは、素材へのこだわりが随所に見られる逸品。その中心となるこしあんは、特別な製法が用いられている。一般的な和菓子店では80メッシュの網であんを漉すのが主流だが、さらに細かい100メッシュの特注網を使用しているそうだ。これにより、こしあんが一層滑らかで口溶けのよい仕上がりとなっている。職人の技巧が光る練り切りの細工にも注目だ。 生地には、白あんに加え、芋と餅を使用。特に注目すべきは芋であり、三重県産の伊勢いもが採用されている。香りと粘りが特徴で、その独特の風味が深みを与えている。三重県から取り寄せてまで使用しているところに、作り手のこだわりを感じた。 ペアリングで提供されるのは抹茶。茶道の作法では和菓子をすべて食べ終えてから飲むのが一般的だが、ここでは自由に楽しむことを大切にしているため、どのタイミングで飲んでも問題なし。誰でも肩肘を張らずにコースを楽しむことができ、“人々の心をほどく”ためのこだわりが見られる。 [HEAD]緊張感と安らぎが調和する空間へのこだわり さらに注目すべきは、空間へのこだわり。一般的な茶室とは異なり、“外”を感じられる空間設計になっている。通常、茶室といえば厳格な作法や規律が求められる場所だが、この空間では、より気軽にお茶と和菓子を楽しめるよう配慮されている。そのため、障子の位置や壁の素材にも工夫が満載だ。 コース終了後、障子の奥の特別エリアに案内してもらった。ここでは、お土産や器などを購入することができる。そして、茶室内に飾られている4つの茶碗にも注目すべきポイントが。「千利休が実際に手に取った可能性がある」という逸話が残る歴史的なものから、近代の技法を取り入れたものなどが展示されており、初代と比較することで茶器の進化や時代背景を感じられる。この展示は、お茶文化の伝統と革新の融合を象徴していると感じた。 店内には、ポップアートの歴史を変えたアンディ・ウォーホルの名作「花」が飾られている。これは、「九九九」のコンセプトの中心である千利休が茶の湯文化を大成させた(=歴史を変えた)という共通点から、飾ることを決めたそうだ。 「九九九」のコースでは、目の前で仕上げられる温かく繊細な和菓子と、厳選したお茶とのペアリングを提供する、唯一無二の体験が楽しめる。夜には一品やオリジナルの茶カクテルも提供され、どれもここでしか味わえないものばかり。今後も訪れる人々に新たな発見を届けてくれるだろう。