「あの子を殺して、自分も一緒に…」精神疾患がある子の親が抱える「深すぎる苦悩」とは
世の中にはさまざまな病気があるが、精神疾患と発達障害は、本人だけでなく、その家族をも追いつめてしまう点に特徴がある。なぜ家族はギリギリまで追い込まれるのか、どうすればそこから回復できるのか。青木聖久氏(日本福祉大学教授)が具体的なエピソードをもとに解説。新刊『発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出』をもとにした特別記事をお届けする。 【画像】死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由
思春期に精神疾患に見舞われる人は多い
生きていれば誰しも病気にかかります。なかには身体、あるいは精神の障害を抱えることになり、それがきっかけで生活を、家族を、友を、あるいは持っていた夢を失うことになる方もいます。 私は、最初ソーシャルワーカーとして約18年にわたり現場で、その後は職場を大学に移して現在に至るまで、精神疾患・発達障害がある方やその家族に伴走してきました。 発達障害についてはよく知られるようになってきたので、ここでは詳しい説明は省かせていただきます。精神疾患とはうつ病、統合失調症など、いわゆる“精神科系”の病のことです。発達障害は生まれつきの特性ですが、精神疾患は、実は思春期頃に発病するケースが多いことが知られています。 思春期とは本来、希望に胸膨らませ、あるいは働き、あるいは勉学に励みながら多くの友を得て、将来に向けいろいろなことに挑戦できる、人生において最も楽しみの多い時期でしょう。 ところが、そのいちばん楽しいはずの時期に、精神疾患に見舞われることで人生で最も辛い体験をすることになる子もいるのです。本人のなかには、それはもう、言葉では言い表せないほどの怒り、孤独感、そして最終的には落胆(らくたん)にも似た感情が芽生えます。 たとえば洋子さん(仮名)という女性のことを思い出します。彼女は両親の愛情をいっぱい受けて育った子でした。裕福な家ではありませんでしたが、両親は「人並みの暮らしだけはさせてあげたい」、という思いから、衣服や嗜好品などをできるだけ欠かさないようにしていたそうです。もちろん洋子さんは、子ども心に親の気持ちを実感していました。 洋子さんはいつも心の中で,「大きくなったら両親に恩返しをしたい」という思いを抱いていました。しかし大学に進学して、〈さあこれから〉という矢先、彼女は精神疾患に見舞われます。それ以来、彼女は、疾患によって〈頑張りたいけど頑張れない〉という状況に置かれることとなり、せっかく入った大学も退学するしかなくなりました。やるせない気持ちが募り、自暴自棄になった時期もあったそうです。