乳がんか卵巣がんの人が血縁者にいたら「遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)」について知っておくべき!【更年期女性の医療知識アップデート講座】
がんリスクが高い、他の遺伝性乳がんや高濃度乳房の検診はどうすればいい?
血縁者に乳がんや卵巣がんの人がいてHBOCの検査を受けたけれども陰性だった場合、また遺伝性だけでなく、高濃度乳房(デンスブレスト:マンモグラフィで乳腺密度が濃い人)などのように乳がんリスクが高い場合*は、今後どのような乳がん検診を受けていけばいいのだろうか。リスクが高くない人と同じ、2年に1回のマンモグラフィ検診で本当に大丈夫なのだろうか? *高濃度乳房について、詳しくはこの連載の<実は閉経前後に上がる「乳がんリスク」!検査すれば確実に発見できるの?>参照 「日本では海外にあるような乳がんのリスクモデルが作られていません。そのため、正式にはハイリスク、ミドルリスク、ローリスク(平均リスクとも言えます)と、分けることは困難です。 しかしながら、HBOCの人はハイリスク。乳がんを経験した人、血縁者に乳がんや卵巣がんの人がいてHBOCの遺伝学的検査を受けたけれども、陰性だった人(HBOC以外の遺伝性のがんの可能性がある)は、ミドルリスク。乳がんのリスク因子がまったくない方はローリスク(平均リスク)などと、大まかな分類は可能だと思います。おそらく高濃度乳房は、海外と同じように日本人でもミドルリスクに入ると考えています」(戸﨑先生) ハイリスク、ミドルリスク、ローリスク(平均リスク)に当てはまる人は、それぞれどのような乳がん検診が妥当なのだろうか? 「ハイリスクの人には、『1年に1回の造影乳房MRIとマンモグラフィ』に加えて『半年ごとの超音波検査』。特にリスクがないローリスク(平均リスク)の人は、これまで通り『2年に1回のマンモグラフィ』でもいいでしょう。しかし、マンモグラフィ検診だけでは日本人の乳がん死亡率が減らないのでは、と近年さかんに議論されています。個人的には『1年に1回のマンモグラフィと超音波検査』が安全だと考えています。 ミドルリスクの人は明確な基準がないですが、上記の中間になります。つまり、『造影乳房MRIを1年に1回、または2年に1回』『年1回のマンモグラフィと超音波検査』を加えて行うことが妥当だと私は考えています。 私の所属する相良グループのさがら病院宮崎では、乳がん術後の人には、造影乳房MRIは2年に1回、マンモグラフィと超音波検査は1年に1回です。また、私のハイリスク外来(銀座医院)では、ミドルリスクの人には造影乳房MRIは1年に1回、または2年に1回、マンモグラフィと超音波検査は1年に1回行っています」(戸﨑先生) 《リスク別検診(リスク層別化検診)の考え方の提案(戸崎先生)》 ●ハイリスク: 「1年に1回の乳房造影MRIとマンモグラフィ」+「半年ごとの超音波検査」 ●ミドルリスク: 「乳房造影MRIを1年に1回、または2年に1回」+「1年に1回のマンモグラフィと超音波検査」 ●ローリスク(平均リスク): 「1年に1回のマンモグラフィと超音波検査」 ゲノム研究や医療の進化で、HBOCの人、HBOCではないが血縁者に乳がんの人が複数いる人、高濃度乳房など、さまざまなリスクがわかってきた。平等という名のもと、皆が同じ検診を一律に受ける時代は終わり、多様性が求められる時代に。これからは、一人一人のリスクに応じた検診を選べる時代にならないと、公平な社会とは言えないのではないだろうか?
取材・原文/増田美加 1962年生まれ。女性医療ジャーナリスト。約35年にわたり女性の医療、ヘルスケアを取材。自身が乳がんに罹患してからは、がん啓発活動を積極的に行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』ほか。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員 イラスト/かくたりかこ