日本柔道復活の裏に井上康生監督が進めた「勝利の改革」
その一方で、精神論にも力を入れた。 科学と非科学の融合である。 代表争いでは、最後の最後まで競争をあおり、2年前には賛否に耳を貸さずに100キロ級で世界選手権へ代表を送らなかった。非科学の部分では、柔道3連覇の野村忠宏を合宿に招き、体験談を語ってもらう。野村は「五輪は特別な力がないと勝てない」と、勝者にしか語れないメンタリティを代表選手に伝えている。 リオ五輪前には、選手に「おれが金メダルを取る!と豪語しろ!」と命令した。有言実行論である。 実際、大野は「最低でも金」といい続け、「井上監督からは、もっとも金メダルに近い男とプレッシャーをかけ続けられたが、その期待に答えられて良かった」と、金メダル獲得後に語り、井上監督から「よく耐えた」と言葉をもらうと、涙を流した。 井上監督は「組織」の変革にも手を打った。軽、中、重の担当コーチ制を復活、重量級は、アテネ五輪100kg超級の金メダリスト、鈴木桂治が担当した。師弟のつながり、チームのまとまりが、目に見えない力を日本選手団全員に与えることを、井上監督は自らの体験から熟知していたのである。 3連覇の野村忠宏は、「井上康生が監督にとなって改革に取り組み本当に強くなった。篠原先輩がダメと言っているわけではなく、いいものを引き継ぎ、そして悪いものを改革するというやり方をしている」と、大会前から、井上路線を高く評価していたが、代表の空気も選手の勝利に対する意識も大きく変化していた。 東京五輪への期待が高まるが、その一方で、原沢がリネールに勝てなかった試合が示すように勝負に徹しきる「JUDO」への対応は、まだ不完全である。だが、井上監督は、さらなる強化プランを暖めているという。