iPS細胞やES細胞だけじゃない…細胞治療でいま大注目の「間葉系細胞」の「意外な正体」
細胞治療という新しい医療技術がある。人工的に増やした細胞を患者の体に注入することで、体が本来もつ治癒力を取り戻し、これまで治らなかった難病も治療できるという。 【マンガ】19歳理系大学生が「フィールドワーク中」に死にかけた「ヤバすぎる体験」 細胞治療に使われる細胞は多種多様だが、現在、一番注目されているのが間葉系細胞だ。iPS細胞やES細胞はニュースで耳にするが、間葉系細胞とは聞き慣れない。どんな働きがある細胞なのか? しかも臍帯=へその緒を使うのだという。 間葉系細胞の研究開発と製造を行っているヒューマンライフコード株式会社代表取締役社長の原田雅充氏に話を聞いた。 ヒューマンライフコード株式会社 代表取締役社長 原田雅充 旧通産省工業技術院生命科学研究所にて血管老化研究を経て、岐阜大学大学院農学研究科生物資源利用学修了(農学修士・遺伝子工学)。2017年、ヒューマンライフコード株式会社を設立 同社は東京商工会議所が主催する、第21回「勇気ある経営大賞」のスタートアップ部門大賞を受賞している。
コロナの後遺症も治す? 間葉系細胞の免疫パワー
現在、内閣府が進めているバイオエコノミー戦略は、環境・食料・健康等の諸課題の解決に生物資源を有効活用しようというもので、医療分野ではバイオ医薬品・再生医療・細胞治療・遺伝子治療関連産業がこれにあたる。 現在、この分野の国内市場は1.5兆円、海外市場26.6兆円だが、2030年には2倍以上、国内3,3兆円、海外55.3兆円まで拡大すると予想されている。その柱の一つが細胞治療であり、間葉系細胞なのだ。 間葉系細胞は骨髄や脂肪、へその緒などにある免疫に深く関係する細胞だ。骨や軟骨、心筋などさまざまな細胞に分化する能力があり、炎症を抑える作用もある。免疫細胞に働きかけて、免疫の暴走を食い止める働きもある。 「間葉系細胞は普段は本当に大人しくて、組織の中に引きこもっているような細胞なんですね。ところが体の中に火事が起こる、免疫状態が暴走して重度の炎症が起きるという非常事態になった時に、消防隊のようにいきなり元気になって炎症を抑えにかかるわけですね」(原田。以下同) 免疫の暴走といえば、コロナの時のサイトカインストームを覚えている人も多いだろう。免疫が暴走し、肺の細胞が破壊され、線維化してしまう。 「コロナ感染の重症化は免疫細胞、具体的にはT細胞が暴走してですね、肺の組織を 破壊するんです。そして肺胞=気管支の先にあり、酸素と二酸化炭素のガス交換を するブドウの房のような小さな部屋が傷ついて、そこにコラーゲンが増加して線維 化してしまいます。すると酸素の透過性が落ちて、呼吸機能が落ちてしまう。生き ていながら水で溺れているような感覚になる。だから人工呼吸器=エクモが必要に なってしまったんです」 間葉系細胞は抑制性のサイトカインとかケモカインを分泌して免疫細胞の炎症物質の分泌を抑制する。 「ストロイド治療のように免疫を抑制する。ただし同時に細胞そのもの、組織そのものを修復する因子も出ます。HGF(へパトサイトグロウスファクター=肝細胞増殖因子)と呼ばれる物質が分泌され、壊れた肺の組織を修復していきます。あくまで修復なので、注入した細胞が肺の細胞に置き換わるのではなく、傷ついて壊れてしまった細胞の修復を促します」 リューマチや膠原病といった自己免疫疾患は自分の免疫系が自分の体の一部を攻撃する病気で、治りにくく、難病指定されている病気も多い。そうした病気を間葉系細胞による細胞治療が有効である可能性があり、苦しんでいる人たちにとってはまさに福音の医療技術なのだ。