「高級車に乗る人」が危険な運転をしがちな理由 権力のある人は自分を抑制する力を失いがち
1970年代には、フィリップ・ジンバルドーがスタンフォード監獄実験で波風を立てた。それについては、すでに論じたとおりだ。 ■「パワー接近/抑制理論」とは? だが、権力がどのように私たちに影響を与えるかについての科学文献は、何十年にもわたって限られていた。これは1つには、参加者に対して研究者が行えることに、遅れ馳せながら倫理的な制限が課されたのが原因だ(ミルグラムの実験も、ジンバルドーの実験も、今日なら許されないだろう)。
そんななか、2003年にケルトナーはデボラ・グルーンフェルドとキャメロン・アンダーソンとともに新しい理論を開発し、それが一気に盛んな研究につながった。 「パワー接近/抑制理論」と呼ばれるこの理論は、ケルトナーと共同執筆者たちには悪いが、口からすらっと出てくる、記憶に残る名前とはおよそ言えない。 だが、その背後にある考え方は簡単に理解できる。要するに、権力は「接近」行動につながる。人は権力を持つと、行動を起こしたり、目標を追求したり、危険を冒したり、報酬を求めたり、自己宣伝をしたりする可能性が高まる。
権力のある人は、ギャンブラーのように人生に取り組む。プレイしなければ、勝つこともできない、というわけだ。 権力は、より多くの人にプレイをさせ、自分は勝つという自信を強めさせる。それとは対照的に、権力のない人は抑制される。先手を打って主体的に行動するよりも、事が起こってから受動的に行動する。用心深く、すでに持っているものを危険にさらすよりも守ろうとする。他者からの脅威や危険に敏感だ。 権力のある人が人生のギャンブラーなら、権力のない人はすでに手にしている数枚のチップにしがみつく可能性が高い。
ケルトナーのアプローチは、実験と観察データの両方に裏づけられている。彼は実験や観察を行って、さまざまな仮説を実世界で試す。 自分自身を観察していて生まれる理論もある(「自分がより多くの権力を持っているように感じたときには、より頻繁に悪態をつきます」と彼は私に語った。「自分でも抑えようがありません」。そして、調べてみると果たして、権力を得ると他の人々もより頻繁に悪態をつくことがわかった)。 ■高級車の持ち主は危険な運転をしがち?