この宇宙で生命は生まれているのか…じつは、生命の材料は「簡単」にできる。それでも、生命の生成を阻む、限りなく「確率ゼロに近い壁」
日本発…「蛍光顕微鏡」による生命兆候の探査法
1990年代、三菱化学生命科学研究所(当時)の河崎行繁は、蛍光顕微鏡を用いる火星生命探査法を提案しました。サンプルに各種の試薬を加えて、特定のもののみが蛍光を発することを利用するもので、生物学では広く使われている分析法です。 試薬には、 DNAのような、らせん構造を有する分子に吸着して蛍光を出すもの細胞膜のような疎水的なものに吸着して蛍光を出すもの酵素のような触媒があると反応して生成物が蛍光を発するもの などがあります。地球のふつうの環境の土壌などをこの方法で調べると、1. ~3. のすべてで蛍光が観測できます。 たとえば、チリのアタカマ砂漠の土壌をSYTO24という核酸染色試薬で染色した実験が行われました。さすがに地球で最も火星に近い環境というだけあって微生物密度が低いのですが、明るく光るく反応した点が見出され、これより暗いものに至っては多数みられました。これらが微生物と考えられます(『生命と非生命のあいだ』では、その画像を掲載しているので、ご覧いただきたい)。 では、他の天体にいるかもしれない地球外微生物には、この方法は使えるでしょうか。
ミシュラン方式が拓く地球外生命の新たな探査法
もし、他の天体に微生物がいたとしたら、その生物には、外界との仕切りはあるでしょうが、地球生命のような脂質膜ではないかもしれません。自己複製するとしてもDNAやそれに似た分子を使っている保証はありません。代謝をするとしても用いた試薬と反応するとはかぎりません。 そこで河崎は、ミシュランのレストラン評価にならい、見つかったものが1. ~3. のうち、1つで光ったものを1つ星、2つの場合は2つ星、すべてで光ったら3つ星としました(図「 地球外微生物を評価する「ミシュラン方式」」)。 生物でなくても光るケースもあるので、光れば必ず生命とは言い切れないのですが、3つとも光れば、つまり3つ星が揃えば、地球の微生物に似たものが存在する可能性が高いことになります。2つ星の場合は、生命でない可能性もあれば、地球型と異なる生命が存在する可能性も考えられます。1つ星ですと、かりに低い確率で生命が存在するとしても、地球のものとかなり異なるタイプのものであると考えられるわけです。 蛍光顕微鏡を用いる生命探査は欧米ではあまり検討されていませんが、日本では「ミシュラン方式」が提案されて以来、継続的に検討が進められていて、最近では「生命兆候顕微鏡」のプロトタイプ(宇宙探査用の場合は「ブレッドボードモデル」とよばれます)もつくられています。
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