なぜ吉田麻也は批判覚悟で東京五輪有観客開催を訴えたのか…「誰のための何のための戦いなんだろう。そこはクエスチョン」
ただ、東京都内の感染状況は再拡大の一途をたどっている。17日の新規感染者は1410人を数え、4日連続で1000人を超えた。1週間平均の新規感染者も1012人に達し、第3波が襲来していた1月27日以来となる、1000人のラインを超えた。 16日には来日中のバッハ会長が菅首相と14日に会談した際に、新型コロナウイルスの感染状況が改善された場合には有観客での開催を要望していたと、主要メディアでいっせいに報じられた。かねてからその言動が批判の対象となってきたバッハ会長に対しては、各方面からさらに激しいバッシングが浴びせられる状況を招いた。 しかも、バッハ会長は17日に都内で実施した記者会見で、有観客開催の一件を事実上認めながらも「匿名の誰かが(菅首相との)私的な会話を漏らした」と言及している。 吉田が指摘したように、有観客と無観客のどちらに振れても、まず感情論が先行する状況が生まれている。それだけではない。国民の批判の矛先をかわすかのような、政治的な駆け引きの道具として東京五輪が利用されている感すらも否めない。 2013年9月に東京での開催が決まり、新型コロナウイルス禍で1年の延期を余儀なくされたオリンピックとは、いったい誰のものなのか。いまこそ主役となるアスリートが抱く思いをはっきりさせるべきだと吉田は思い立ったのだろう。 「孫がオリンピックに出るのを観たいと望むじいちゃん、ばあちゃんはたくさんいるだろうし、家族もそうですよね。僕にも娘がいます。まだ4歳で、僕のプレーするところを覚えていないと思うけど、僕だけじゃなくて家族も一緒に戦っている。それが観られないというのは誰のための、何のための戦いなんだろう。そこはクエスチョンです」 思いの丈をすべて伝えた吉田は、最後にこんな言葉を残して席を立った。 「もう一度検討していただきたいと心から願っていますし、(メディアの)みなさんが発信してくれることを願っています」 厳しさが増した表情は、U-24南アフリカ代表との東京五輪グループリーグ初戦(東京スタジアム)を5日後に控えた、U-24代表のキャプテンのそれに戻っていた。 (文責・藤江直人/スポーツライター)