なぜW杯出場を決めた豪州戦で森保監督の采配がズバズバ的中したのか…「積極と消極の2つの判断がある場合は積極を」
山根と守田は、異次元の強さで2020シーズンのJ1リーグを制した川崎のチームメイトだった。そして、もう一人。昨夏に川崎からヨーロッパへ新天地を求めた三笘も、脳裏に同じ“絵”を描いていた。山根が続ける。 「薫とはずっと意思疎通ができていたし、絶対にあのポイントにいると思っていた」 ゴールラインを割りそうだった守田からのパスを、山根は身体を捻りながら意図的にマイナス方向へ折り返した。目の前にいたFW上田綺世(23、鹿島アントラーズ)を追い抜き、ゴール正面へ走り込んできた三笘が右足でボールにタッチ。ゴール左隅に吸い込まれた待望の先制点が、ワールドカップ出場を大きく手繰り寄せた。 「視来くんがあそこでクロスを出すときには、フロンターレ時代からマイナスに来るとわかっていた。ちょっとダフり気味だったけど、コースは見えていた。相手選手もスライディングに来ていたので、コースに流し込むことだけを意識した」 三笘がこう振り返った代表初ゴールが決まった瞬間、ペナルティーエリア内には山根、守田、上田、さらにMF伊東純也(29、ヘンク)と実に5人が侵入していた。 残り時間がわずかとなった状況で、さらに引き分けでも悪くはない展開で、まさにあうんの呼吸でリスクを冒す。チームコンセプトとして「いい守備から、いい攻撃へ」を掲げる森保監督は、均衡を破るまでの過程へ最大級の賛辞を送った。 「私がプランした大まかなコンセプトに選手たちが従ってくれながら、ピッチ上で実際に戦っているのは自分たちだと選手が認識して、試合の流れを読み取りながら修正力や対応力を主体的に発揮して、試合に勝つ選択をしてくれた」 日本が勝てば7大会連続7度目のワールドカップ出場が決まり、逆にオーストラリアが勝てば勝ち点で日本と並び、得失点差で上回ってグループBの2位に浮上する大一番。引き分けた場合でも日本の優位は動かず、ホームの埼玉スタジアムにベトナムを迎える29日の最終節で、引き分け以上ならばカタール行き切符を獲得する。 後がないオーストラリアが攻勢に出てくる展開は予想できた。しかし、日本も応戦する展開で、まさに殴り合いのような激しい攻防に前半は終始した。南野だけで7本のシュートを放ち、そのうち2本がクロスバーに弾かれている。 大迫勇也(31、ヴィッセル神戸)を怪我で欠いたセンターフォワードには、縦へ抜けるスピードを武器とする浅野拓磨(27、ボーフム)が指名された。 縦に速く攻めればその分だけボールを失う回数が増え、カウンターを受けるリスクが高まる。実際、オーストラリアはマイボールになるや左サイドバックの長友佑都(35、FC東京)の背後へ縦パスを集め、日本のゴールを脅かしにきた。 ハーフタイムをへて迎えた後半。日本の戦い方に修正が入った。 アンカーの遠藤航(29、シュツットガルト)とインサイドハーフの守田、田中が意図的にボールを保持。後半に運動量が落ちるデータがあった相手を焦らした。 「後ろからボールをもっと丁寧に繋ごうと。相手が嫌がっているのは見てとれたし、失点しないことがこの試合で一番大事なことだったので」 後半のピッチに生じた変化を守田が振り返れば、代役のきかない存在となって久しい遠藤は、前半の攻防から個人的にはまったく慌てていなかったと明かした。 「拓磨(浅野)が先発で相手の最終ラインの裏という選択肢が増えたので、全体的に間延びした部分は仕方がなかった。最終的には個の部分で負けなければいい、と」 落ち着きを取り戻した展開に、雨に打たれてさらに荒れたピッチを加えれば、ともに無得点のまま試合を終える選択肢も頭をもたげてくる。 しかし、三笘が救世主と化すまでの過程に象徴されるように、ここ一番でリスクを冒すイメージが共有された背景を探っていくと、試合前のミーティングに行き着く。 「試合中は難しい判断をいろいろと下さなければいけないが、積極と消極の2つがある場合は、積極的な判断をしてほしい」