約600万年前、地中海が干上がっていた!?「メッシニアンの塩分危機」と岩塩ができるまで
大小1万4000余の島々からなる日本列島。ユーラシア大陸から「独立」するまでの過程や、鉄や黄金などの列島がもつ資源についてなど、地学教育の第一人者である伊藤孝氏が解説した『日本列島はすごい』(中公新書)より、日本列島史の一部をご紹介します。今回は、岩塩について。岩塩ができる仕組みと、形成されやすい地形の特徴とは――。 【写真】西オーストラリアの無人島デキソン島の塩 * * * * * * * ◆岩塩は蒸発岩の一つ 世界の半分以上の人たちは岩塩を食しているらしい。日本でも食にこだわりのある方は、いろいろな岩塩を使い分けているかもしれない。 岩塩とは、いってみれば、塩でできた地層である。地質図Naviをいくら目をこらして眺めてみても、塩の地層は出てこない。日本列島にはないのだ。 泥岩、砂岩、レキ岩など、陸が削られてできた粒子が海のなかで溜まってできたのが一般的な堆積岩である。実は、まったく異なるできかたの堆積岩もある。水のなかに溶けていた物質が、析出・沈殿して形成されたものだ。通常は、水が蒸発・濃縮して、溶解度を超えた鉱物が析出・沈殿していくので、蒸発岩と総称されている。 蒸発岩に含まれる鉱物は、岩塩(NaCl)、石膏(CaSO4・2H2O)、方解石(CaCO3)などが代表的なものであり、実に多様である。現在の組成の海水が蒸発した場合、量的にもっとも多く析出・沈殿するのは岩塩だ。本稿では、とくにナトリウムのゆくえに着目しているので、蒸発岩に含まれる鉱物のうち、この岩塩に絞って考えてみる。 図5-4には世界のおもな岩塩の産地を挙げてみた。皆さんのお気に入りの岩塩の産地は含まれているだろうか。図中、岩塩が堆積した地質時代名が併記されており、様々な時代に岩塩が作られていることがわかる。
◆無人島の塩 昔の自分がスケールになっている写真で恐縮だが、図5-5を見てほしい。オーストラリア北西部の小さな無人島デキソン島(Dixon Island)に行ったときのものだ。池に氷が張っているように見えるのが岩塩である。これは海が大荒れのときに海水が海岸の岩の凹みに流れ込み、それが蒸発したものである。まさに、小学校理科の蒸発皿実験の天然版だ。 一般に、蒸発岩が形成される条件として、 1)河川からの淡水の供給が限られている 2)外洋との接続が限られている 3)気候が異常に乾燥している の三つが挙げられる(Press, F. and Siever, R. “Understanding Earth”, 3rd ed.)。 このデキソン島の天然蒸発皿はちっぽけであるが、わずかとはいえ、海水からナトリウムイオンを取り除いている。極端な表現をすれば、これがもっと大規模に起こった例が図5 -4に示した岩塩だ。このなかで、地球史上、わりと最近の例は、地中海の干上がりである。