「騙される奴は頭が悪い」と見下す人ほど騙される…脳科学者が断言「高学歴・高収入・高地位でもコロッといく」
■騙されない脳にするにはどうすればいいのか 生活習慣を改善することで、ワーキングメモリーの機能低下を防ぐことは可能です。ワーキングメモリーの能力は18歳から25歳ぐらいがピークで、その後、40歳から徐々に落ち込み始めると言われています。具体的には、①禁煙、②運動、③健康的な食事、④趣味を持つこと、⑤生活習慣病の改善。この5つが予防策として挙げられます。 運動は質を問わずウオーキングのような軽いものでも効果が出るとされています。食生活に関しては野菜と魚を豊富に摂取すること。効果の見込める趣味(余暇活動)は、脳トレのような頭を使うもの、運動のように体を使うもの、そして人間関係の構築が見込める社会参加の3種類。 最後に、高血圧、肥満、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病は、認知機能の低下を引き起こすと言われており、これらを改善することも効果的なアプローチとなります。 しかし、これらはあくまで機能低下の予防策であり、機能が向上するような効果は望めません。いくら予防をしたところで騙す側の技量が高ければそこまで意味を成さないでしょう。 ここまでの話をまとめると、人間は元来騙されやすい生き物であり、そのうえワーキングメモリーの容量はほぼ増えることはない。ただ、機能低下の予防をしたところでそれは誤差の範囲である。そう考えると「騙されない方法はないのでは?」と、諦めてしまいそうです。しかし、自分が置かれている精神状況を鑑みたり、騙しのメカニズムを熟知したりすることで、騙されにくくすることはできるはずです。 具体的には、警察庁が提供しているような特殊詐欺の事例集から、騙す側のスキームを学習するのはかなり効果的だと考えています。一見、当たり前なことにも聞こえますが、もし自分が詐欺を持ちかけられた状況に陥ったとき、俯瞰して自分の状況を把握できるのは効果的です。 また、騙される可能性がある場面においては、その場で冷静な判断を下すのはなかなか難しい。よって、いったん持ち帰ってワーキングメモリーの容量が空いた状態で振り返る必要があります。人間はどうしてもその場の状況に丸め込まれてしまいがちなので、その場を回避して俯瞰できる状況をつくるべきでしょう。 繰り返しにはなりますが、人は誰しもが騙されやすい生き物だと認識しておくことです。高学歴でも、高収入でも、高地位でも、私のような脳科学者でも、騙されるときはコロッとやられてしまうものです。 そうした脳の性質を理解していれば、相手を信じてしまっているときに、「今の自分はワーキングメモリーがいっぱいになっているのではないか」と疑うことができるはずです。 ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年10月18日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 篠原 菊紀(しのはら・きくのり) 公立諏訪東京理科大学情報応用工学科教授 遊び中、運動中、学習中などの脳活動を調べ、脳トレへの活用や依存症の予防などを研究する。著書に『「すぐにやる脳」に変わる37の習慣』ほか多数。 ----------
公立諏訪東京理科大学情報応用工学科教授 篠原 菊紀 構成=佐藤隼秀