「騙される奴は頭が悪い」と見下す人ほど騙される…脳科学者が断言「高学歴・高収入・高地位でもコロッといく」
■人間の脳はもともと騙されやすくなっている 詐欺被害防止を周知するキャンペーンで、「“私は大丈夫”が一番危ない」というお決まりのフレーズを聞いたことがあるかと思います。これは「詐欺を他人事として捉えていると、足をすくわれて騙されてしまうので気をつけましょう」と注意喚起しているわけですが、実際のところあまりピンと来ませんよね。特殊詐欺の被害に遭った人の報道を見るたび、心のどこかで「詐欺は高齢者や情報リテラシーの低い人が引っかかるもの」と思い込んでいる人は多いのではないでしょうか。 【図表】ワーキングメモリーがいっぱいに なりやすい人の特徴4つ しかし、脳科学的な立場から紐解くと、基本的に騙されない人間というのはいません。人間は他者を信じてしまう生き物なのです。その理由は、人類が発展してきた歴史を遡るとよくわかります。 そもそも人類が生物学的に生き残ってきたのは、他者との共同生活を始めたからです。人間は元来一人では生きられない生き物でしたが、集団行動で他者と行動を共にすることで、効率的に生き残る術を会得したと言われています。例えば、集団でいるときに動物や他の部族などの襲来があったとき、他者の目の動きで相手がどっちを向いているか判断して危険を回避するなど、人間は他人の動作から意図を汲み取る能力に長けています。 人の白目部分が大きいのはどちらを向いているのかすぐわかるためでもありますし、ミラーニューロンシステムと言って他者の行動や意図を真似ようとする神経システムも持っています。要は、人間は他者に同調してコミュニケーションを図る生き物であるがゆえに、相手を信じやすく騙されやすい性質を帯びているのです。こうした大前提を踏まえたうえで、特にどのようなシチュエーションで人は騙されやすいのか見ていきましょう。 そもそも特殊詐欺において、知らない人間から「キャッシュカードが不正利用されている」「税金で未払いの料金がある」といった嘘を吹き込まれてお金を振り込んでしまうのは、冷静に考えれば鈍感すぎますよね。ただ、これは騙された本人に備わっている判断力が低いというよりも、詐欺を働く側が判断力を鈍らせるスキームを展開しているのです。 いまでも被害件数が多いとされるオレオレ詐欺は、最近その手口が複雑化しています。以前なら息子を装った人物が示談金を要求するという単純なやり口でしたが、近年では息子だけでなく警察官や弁護士、会社の上司など、多くの人物が断続的に電話をかけてくるスキームが常套化しています。複数の人物が入れ替わり立ち替わり登場することから「劇場型」と呼ばれているこのスキームは、多角的に情報を与えることで被害者を翻弄しているのです。 この「劇場型詐欺」は、脳科学的に見ても理にかなった手口です。人間の脳にはワーキングメモリーと呼ばれる機能が備わっています。ワーキングメモリーとは端的に言えば「メモ帳」のような機能で、ちょっと前の出来事を記憶し、そのメモを使って判断したり行動したりするというもの。一例を挙げると、広告で見た電話番号を覚えて電話をかけることができるのも、ワーキングメモリーの働きによるものです。 ただ、ワーキングメモリーの容量には限りがあります。実際に、電話番号を覚えた後に「“フジサン”を逆から発音してください」「100から7を引き続けてください」といった、まったく関係ない別の作業を遂行してみてください。一通り問題を解いて、さて広告で見た電話番号を思い出そうとしてみると、頭が真っ白になってしまう人もいるのではないでしょうか。 このようにワーキングメモリーは、大体3~4つの事柄を同時並行するのが限界と言われており、マルチタスクを強いられるとキャパシティーを超えてしまうのです。 さらに、ワーキングメモリーの空き容量が圧迫されることで、脳の判断力は低下してしまいます。前述した「劇場型詐欺」では、様々な立場の人から情報を与えられ続けることで、脳が正常に情報を処理しにくくなり、胡散臭い話でも騙されてしまう状態に追いやられてしまうというわけです。 しかも判断力が鈍った状態で、複数人から「息子さんが事故に遭った」と伝えられたら、より盲信してしまいがちになります。こうして詐欺集団は、被害者のワーキングメモリーを消耗させながら、でっち上げの嘘にあたかも信ぴょう性があるかのように演出しているのです。 ■感情が高ぶったときも騙されやすくなってしまう また、ワーキングメモリーは、感情が高ぶったりストレスを感じたりすることでも圧迫されてしまう性質を持ちます。危機感や焦燥感を煽られるとパニックになったり、失恋した直後に他のことが手につかなくなったりするのも、ワーキングメモリーが機能しにくくなっている証拠です。 さらに、マイナスな感情だけでなく、プラスの感情が芽生えたときも実は危険です。投資詐欺で「いま投資すると儲かる」と射幸心を煽られたり、ロマンス詐欺で結婚を匂わされたりすることで、神経伝達物質のドーパミンが発生します。一見、ドーパミンはやる気や幸福感を与えてくれるのでポジティブなものに思えますが、ポジティブな思いもまた脳のメモを数枚占拠してしまうので、ワーキングメモリーの働きが抑制されてしまうのです。 加えて、ドーパミンと関連すると考えられているのが、いわゆるプラシーボ効果です。これは実際に効果がない偽薬を、飲んだら効能があるとあらかじめ伝えることで期待感からドーパミンが分泌され、服用後に本当に効果が表れるというものです。こうしたドーパミンの過剰分泌は深夜帯などに長時間の作業をしている際にも起きやすく、その行動が価値あるものだと思い込みやすくなってしまいます。泊まり込みのセミナーで洗脳されてしまう人が出てくる理由はここにあるのです。