命がけで逃げて…「DV夫から逃げた妻」がその後20年近く苦しんだ訳
暴力はいつ始まるかわかりませんでした。夫はとても外面がよく、優しそうに見え、職場の上司から何か言われても反論などしないのですが、そのぶん、家に帰ると些細なきっかけで激昂し、薫さんに殴りかかってきました。 「襟元を掴まれて、頭を床に何度も打ち付けられて、ボコボコに蹴られて、玄関まで引きずり出される、というのがお決まり。『助けて!』って大声で叫んだけれど、近所の人は遠くから眺めるだけで助けてくれず、通報もしてくれない。見て見ぬふりでした」
夫は家ではほとんど口をきかず、薫さんが話しかけると「うるせえ!」と怒鳴り返しました。昔の同級生の女性と浮気をしており、家に帰らないこともしょっちゅう。「支配者と奴隷」のような関係のなか、薫さんは「家事を完璧にやらないと、自分には生きている価値がない」と思うようになっていたといいます。 時が経つにつれ、夫のDVは激しさを増していきます。ときには息子に矛先が向かうこともありました。プロレスごっこの延長で、息子を本気で痛めつけたり、お風呂に入ったときに、ふざけたふりをして息子の頭を湯船につっこんだり。虐待ですが、その頃もっと酷い暴力を受けていた薫さんには、止めきることができませんでした。
■裁判に勝ち、親権者に 離婚を真剣に考え出したのは、息子が7歳のときでした。ずっと相談にのってくれていた友人から、「このままだと息子が高校生くらいになったとき、父親と殴り合いの喧嘩をして、殺し合いになってもおかしくないよ」と言われ、ハッとしたのです。 「それで一度、役所へ相談に行ったら、『今すぐ保護する』と言ってくれて。でも、私はまだ覚悟ができていなかった。いきなり家を出たら、夫が追いかけてきて殺されるかもしれないと思って、『まだ大丈夫です』って断っちゃった。ただそのとき、避難できるってことはわかったので、『次に殴られたら家を出よう』って心に決めました」