SP3位発進の坂本花織は“最強ロシア(ROC)3人娘”の牙城を崩して浅田真央氏以来のメダルを獲得できるのか
“最強ロシア3人娘”の牙城の一角を崩して3位に食い込むことができた理由は、最終滑走のプレッシャーを評価に変えることができた強靭なメンタルであり、2つ目に決めた3回転ルッツだ。 坂本自身も、「なんとかジャンプ3つを揃えることもできたし、一生懸命、ルッツもしっかりと練習したので、今日それがちゃんと認定されたのでうれしい限りです」と言う。 ルッツジャンプは、左足のアウトサイドエッジで後ろ向きに滑り、踏み切る左足とは逆の右足のトゥを突いて跳び、その右足で着氷するジャンプだ。つまり助走と逆の方向に回転する難易度の高いジャンプで、坂本は、アウトサイドエッジではなくインサイドエッジで踏切るクセがあり、これまでエッジエラーで減点されることが少なくなかった。銅メダルを獲得した団体戦のフリーでもアテンションマークがついた。 昨春から千葉の「三井不動産アイスパーク船橋」に設立されたMFフィギュアスケートアカデミーのヘッドコーチに就任した中庭健介氏も「3回転ループに変えず課題だった3回転ルッツに挑み成功したことが高得点の要因のひとつ」と見る。 「坂本選手が諦めずにコツコツ取り組んできた練習の成果だと思います。私が競技会などでの練習で、アウトサイドエッジで踏み切れるように、片足のスケーティング動作から跳ぶようなエッジエラー対策の基礎的な練習を繰り返していました。ルッツやフリップジャンプの踏切エッジにおいて一度、ついてしまったクセを直すことは、新しいものを習得するよりも難しいことなのです。自分も選手の時にフリップの踏切に悩まされて、いかに直すことが大変かよくわかります、本当にすごく頑張ったんだと思います」 そして坂本が世界に誇れる長所を中庭氏は、こう解説する。 「通常、ジャンプをする度にスケーティングのスピードは減速するのですが、坂本さんは、ランディングしてからもスピードが落ちず、次のエレメンツにつなげることができているのが特長です。流動性が生まれ、演技全体のダイナミックな表現にもつながっています。なぜそれが可能になっているのかと言えば、助走スピードが世界でもトップクラスのものであることと、ジャンプに高さがあるため余裕が生まれ、着氷するタイミングがわかっているからなんです」 では注目のフリーはどうなるのか。坂本に、日本のフィギュア女子では、バンクーバー五輪で浅田真央氏が銀メダルを獲得して以来となる表彰台の可能性はあるのか。 坂本とトップのワリエワとは2.32差、2位のシェルバコワとはわずか0.36差で、後ろを見ると4位のトゥルソワに5.24差だ。 それぞれがフリーで自己ベストを出すと仮定すればワリエワは、フリー185.29(2021年ロステレコム杯でのスコア)で合計267.45、シェルバコワはフリー168.37(2022年欧州選手権同)で合計248.57、坂本がフリー150.29(2021年世界国別対抗同)で合計230.13だ。4位のトゥルソワはフリー166.62(2019年GPカナダ同)で合計241.22となり、男子顔負けの5本の4回転ジャンプを用意しているトゥルソワが、そのすべてを成功させ、自己ベストを更新してくると逆転を許すことになる。