「女性には子を生み母にならない選択肢がある」 フランスの制度を通して見える、日本の「不平等」【フランスの匿名出産】
専門職として訓練を受け、20年以上の経験を重ねたスタッフは「実母は、子どもを養子縁組に出すことに罪悪感を抱えていることが多く、自ら孤立する選択肢を取る人がよくいる」と指摘する。 「子どもを捨てるなんて」「間違っているんじゃないか」。多くの女性がさまざまな社会のプレッシャーを感じてきた。だから、専門職は意見を押しつけず、深いケアに専念する。「子どもを心配しているから、すごく悩む。そのこと自体が子どもにとって大事なことをしてあげている」と伝えている。 ▽意思ある人間として 日本政府は2022年秋、内密出産の指針を策定した。指針は「身元を明かした出産」が大原則とした上で、女性が身元を明かすよう、医療機関に対し説得を求めている。 「意思のある人間として、女性を尊重していない。苦悩の末、内密出産に至った女性の、子どもへの思いやりも無視している」。そう指針を批判するのは、パリ在住で子ども家庭福祉を研究する安発明子さんだ。育児負担が重いのに、予期せぬ妊娠を女性の「自己責任」とする風潮に「なぜ女性だけを責めるのか」と問いかける。
安発さんによると、フランスでは、子どもが18歳になるまで父親の認知を裁判所に請求できる。DNA検査を拒否したり、出頭しなかったりした場合は、男性が父親だと決定され、養育費の支払い義務が発生する。一方、日本では「男性だけが、認知せず育てない権利を暗黙のうちに認められている」と、不平等な状況を指摘する。 ▽全ての人に福祉を 安発さんは、日本でも匿名出産という選択肢があれば、親子ともに安全が確保でき、サポートを実現しやすいと考えている。「長い間、一人で『どうしよう』と思っていても、選択肢がなければ追い詰められ、パニックになってしまう。(匿名出産制度を)使わなくても、相談できると思えば、そもそも秘密にしなくていい状況を作れるかも知れない」 フランスの福祉現場では『人は常に考え得る限りの最善の選択をしている』との前提に立ち、全ての人に福祉を届けるよう力を尽くすという。「助けを求める人が一番良いと思える道を選べるよう、専門職が支えるべきだ」と語る。 ▽長い行程になる