「女性には子を生み母にならない選択肢がある」 フランスの制度を通して見える、日本の「不平等」【フランスの匿名出産】
「おなかが大きいんじゃない?」。匿名出産したある女性は、同居する親戚にそう指摘され、初めて受けた検査で妊娠が判明した。すでに妊娠33週だった。 担当した心理士によると、女性の母親は生後2カ月で彼女を置いて去り、父親も不在だった。女性は突然の妊娠を受け入れ難かった一方、「母親のように子を見捨てたくない」と葛藤していた。 匿名出産して一度は子と離れたが、自分で育てたいと匿名を撤回した。入院し、心理士ら専門職の支援を得て、ミルクを飲ませるなど経験を重ね、3カ月後に母子ともに退院。保健所はフォローを続ける。 病院の医師は、「妊娠の否認」の状態にある妊婦は、おなかの膨らみが目立たないこともあり、周りも気付きにくいと説明。幼少期に親などから拒絶された経験がある人もいるという。慈恵病院の蓮田健院長によると、日本で内密出産した女性たちも「どうすべきか分からない」と訴えることがあるという。 ▽中長期支える
パリ市中心部のマンションの一室を訪れると、深い紺色の壁を背景に、柔らかい黄色のソファが3つ並んでいた。ソファの傍らにはティッシュが置いてある。 匿名出産後、中長期の支えを必要とする女性が通うパリ市の妊娠葛藤相談所「MOISE(モイーズ)」の相談室だ。4人の女性スタッフが出迎え、長年の取り組みを丁寧に説明した。「ここで話す女性は必ず涙を流すから、ティッシュは欠かせない」 1992年、女性が自分で自由に選択でき、気持ちや葛藤を十分に聞いてもらえる場を作ろうと民間団体が開設。公金で運営される。心理士とソーシャルワーカーの二つの資格を持つスタッフが女性に寄り添ってきた。 ▽重大だからこそ モイーズでは女性の過去には一切言及せず、話に耳を傾ける。あるスタッフはこう説明する。女性たちは、匿名出産の決断があまりに重大だと分かっている。だからこそ「日によって考えることも全然違う。それは当然のことだ」