「女性には子を生み母にならない選択肢がある」 フランスの制度を通して見える、日本の「不平等」【フランスの匿名出産】
フランスで匿名出産した女性を取材中、日本政府の指針では、内密出産を選んだ女性に、身元を明かすよう医療機関に「説得」を求めていると伝えた。女性の顔は曇り、怒りをあらわにした。説得して再考させることは「傷口にナイフを突き刺すことで、暴力だ」と批判した。「あらゆる方法を考え尽くした上で決断し、表明している。その人にとっての到達点であり、その人にとっての最善だと受け入れるべきです」 「なぜ避妊や中絶をしなかったのか」。予期せぬ妊娠をした女性に対し、こうした批判は繰り返されてきた。しかし、彼女たちにどれだけの選択肢があったのか。緊急避妊薬はようやく試験販売が始まったが、高額な上に薬剤師の面前での服用が求められる。中絶は未だに刑法上の「堕胎罪」であり、健康保険の対象外のため、全額自己負担だ。あるフランスの女性医師は、日本で中絶が有償であることに「健康のビジネス化だ」と憤った。10月、国連の女性差別撤廃委員会の委員は、人工妊娠中絶に配偶者の同意を原則必要としていることは「近代国家として非常に驚くべきことだ」だと指摘した。
経済的制約や特定の条件によって、女性が自分の体について決定する範囲を狭め、選択肢が奪われる日本社会。女性の自己決定権をないがしろにし、「産む性」としてみるまなざしが根強くある。 秋が深まるフランスを訪れた昨年10月。匿名出産に関わる病院や相談所で、ソーシャルワーカーを始めとし専門職の女性たちに出会った。温かくも中立でありのままを見つめ、1人の人間として接してくれる女性たちになら、心の底から安心して何でも話せるような気持ちになった。1日も早く、女性が1人の人間として尊重される国になることを願ってやまない。