「女性には子を生み母にならない選択肢がある」 フランスの制度を通して見える、日本の「不平等」【フランスの匿名出産】
フランス視察を通じて、慈恵病院の蓮田健院長が痛感したのは、日本の孤立した妊婦への支援の貧弱さだ。蓮田院長が訴えている「内密出産の法制化」が実現するまでは、資金を含め「目下は自己責任で続けるところになる」と嘆息する。 フランスでも、現状の制度を確立するまでにはさまざまな議論があった。「長い行程になるが、日本でも社会に関心を持ってもらい、歩んでいく必要がある」 ▽かわいそうではなく 日本の状況を省みる。2020年、熊本県内のミカン農園で働いていたベトナム人技能実習生が、妊娠を誰にも相談できないまま双子を死産した。死体遺棄罪に問われたが、2023年3月、最高裁で無罪を勝ち取った。 弁護人を務め、フランス視察にも参加した石黒大貴弁護士は、視察を通じ「女性には、子どもを生み、母にならない権利がある」と確信した。 今年7月に熊本市で開かれたシンポジウムに登壇した石黒弁護士は、日本社会にこう問題提起した。「妊娠を誰にも言えない事情があるにも関わらず、母親になれないのは無責任だと非難する社会になっていないか」
複雑な事情を抱え、妊娠しても「母」にはなれない女性がいる。「彼女たちの権利は尊重されなくていいのか」 「かわいそう」だからではなく、権利として内密出産を理解する必要があると訴える。 ▽「助けて」言える環境を 予期せぬ妊娠を誰にも相談できず、孤立する女性が後を絶たないのは、貧困などの事情を抱えていても、行政や医療機関への相談のハードルが高い現状があるようだ。 妊娠や特別養子縁組の相談に応じる団体「ベアホープ」(東京)理事の赤尾さく美さんは、予期せぬ妊娠を「自己責任」と断じる風潮を変えるには、貧困、若年など、背景にある問題を理解し、医療、保健、福祉の専門的な支援を届けることが重要だと指摘する。 だが現状は「相談から、受け皿となる支援に至るまで、各自治体で体制に温度差がある」。 幼少期に虐待を受けるなど周りに信頼できる大人がおらず、支援機関の情報が届いていないケースもあるとして、赤尾さんは「『助けて』と言える信頼できる大人と、安心できる居場所があることを学べる機会をつくる必要がある」と話した。 【取材後記】