「女性には子を生み母にならない選択肢がある」 フランスの制度を通して見える、日本の「不平等」【フランスの匿名出産】
一緒に過ごしてミルクをあげたり、写真を撮ったり。子どもにとって家族との別れが決して暴力的ではないように、産後の時間をともに過ごし、たくさんのコミュニケーションを重ねた。 女性は養子縁組団体の心理士と毎週のように会い、出産もスタッフが付き添った。それでも子どもを養親に託した後、心を決めていたはずの女性を待っていたのは「空っぽな気持ち」。 女性は、専門職による「別れのケア」の重要性を語る。「必要な時に必要なだけ話を聞いてくれる人がいた。そして私にはその権利があった」 ▽母は強制されない 匿名出産に関わる法整備を担ってきた元最高裁判事マリー・クリスティーヌ・ル・ブシコさんは「女性に母親になることを強制する法律はない」と強調する。 ブシコさんによると、匿名出産は17世紀、パリ市にある2つのキリスト教系の病院で始まった。事情を抱えた女性が病院に来ることをためらい、危険な路上で出産することを確実に防ぐため「女性達に何も聞かず、質問しない」。
重要なのは平等であること。婚外子の子どもが、結婚した夫婦から生まれた子どもと違う扱いを受けることは許されず、安全な場所で健康に生まれる権利が守られなくてはならない。女性には秘密に出産する自由があり、自分で育てない選択をすることができる。 「人の選択を尊重し、子どもの人生を守る。子どもを遺棄しなくていい方法がある。出産に関する条件も、子どもが育つ環境の条件も保障できる」 実母は、匿名出産を選んだ理由や自分の個人情報など、子どもの出自に関する情報を残すことができ、こうした出自情報は国の専門機関(クナオプ)で保管される。母親の匿名性と、子どもの出自を知る権利の両立を目指している。 ▽妊娠の否認 ブシコさんは、匿名出産によって、「妊娠の否認」の状態にある女性を守れると強調していた。「妊娠の否認」という言葉は日本では聞き慣れないが、フランス滞在中、何度も耳にした。パリ郊外の公立病院の女性医師や心理士たちの説明によると、妊娠を心理的に受け入れられなかったり、気付かなかったりする状態を指す。