今後20年で富の大移動が発生? 最新のアート市場調査から学ぶべき3つのポイント
3. 調査対象によるアートフェア参加や購買行動の違い
ポストコロナの今、富裕層がアート関連のイベント出席に積極的なのは不思議ではない。反面、コロナ禍で身につけた行動様式──オンライン・ビューイングルームやウェブサイト、さらにはインスタグラムからのアート購入──に適応し、それを習慣化していることも見逃せない。 2019年に富裕層は、年間平均41件のアート関連イベントに出席。内訳にはギャラリーの展覧会6件とアートフェア5件が含まれていた。2020年にこの件数は激減したが、今回のレポートでは、2023年は平均49件のアート関連イベントに参加し、2024年には約46件のアート関連イベントへの参加を計画するなど、対面式イベントへの参加件数が顕著に回復しているという歓迎すべき結果が出ている。 しかし、アートフェアやギャラリーの展覧会への来場者数は回復したものの、スタジオ訪問やライブオークション、ビエンナーレや大規模芸術祭などのイベントでは、2019年の来場者数を下回っている。また、アート関連イベントへの参加を国内外でバランスよく調整するようになり、2024年には参加イベントの54%が居住国で開催されるものだった。 「コレクターは、これはというイベントに的を絞り、はっきりした意図を持って参加するようになってきています」 ホロウィッツはUS版ARTnewsの取材でこう述べ、コロナ禍以降、世界各地で行われるアート・バーゼルで地域性が若干高まっていることを指摘した。富裕層が地元のフェアを選んで訪れる傾向が強まった結果、マイアミビーチはよりラテンアメリカ色が濃くなり、スイス・バーゼルのフェアはヨーロッパ色を強く打ち出すようになっている。そして、最も国際色豊かなのがアート・バーゼル・パリだという。 今回のレポートに示された最も興味深い結果の1つが、市場全体の調査と、アート・バーゼルのVIPに対象を絞り込んだ調査との間に差があることだ。マッキャンドルーによると、アートへの関心が高いアート・バーゼルのVIPゲスト(資産額でのスクリーニングなし)を対象とした調査では、メインレポートの富裕層一般とは行動パターンが異なることが明らかになった。 富裕層一般では、コロナ禍以前に比べて参加するアート関連イベント数が増え、リアルなアート体験への関心の高まりが示されている。しかし、こうしたコレクターたちには、ギャラリーを訪れて購入するよりも、オンラインやメールなど、リモートで買うのを好む人が多く、ギャラリーを通じて購入する人のうち、対面での取引を好むという回答は約20%にとどまっている。一方、アート・バーゼルを訪れる熱心なVIPゲストに限ると、対面でのコミュニケーションを優先する傾向があり、コロナ禍以前よりも参加するイベントの数は減ったものの、購入には依然として対面の場が重要な位置を占めている。 つまり、富裕層一般は活発にアートイベントに参加しながらオンラインでの購入を好み、少数の熱心なコレクターはイベントへの参加は減っているものの対面での購入体験をより重視するという対照的な結果となっている。(翻訳:清水玲奈)
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