今後20年で富の大移動が発生? 最新のアート市場調査から学ぶべき3つのポイント
2. 「富の大移動」による市場への美術品大量流入の可能性
このところ主流になっている見方によると、今、アメリカでは史上最大の富の移転が始まりつつあるという。今後20年ほどの間に、戦前生まれのサイレント世代や第一次ベビーブーム世代の銀行口座、保有資産、コレクションが、X世代、ミレニアル世代、Z世代などの若い親族へと移動し、ゆっくりとではあるが、84兆ドル(約1京2600兆円)もの富が受け継がれることになる。 保有資産が10億ドル(約1500億円)を超える超富裕層(ビリオネア)だけでも、6兆ドル(約900兆円)が配偶者や子ども、慈善団体や美術館に渡ることが予想されている。それは市場にどんな影響を与えるのだろうか? 留意が必要なのは、若い世代の好みは年配の親族の好みと必ずしも一致しないという点だ。 それでも、若い富裕層が相続した美術品の保存に関心を持っていることが調査から明らかになった。回答者の91%はすでに相続した美術品を所有し、そのうち72%はそれらの作品を自らのコレクションとして保管していると回答した。相続した美術品を売却または寄付する理由としては、既に所有しているコレクションとの相性が悪いことを挙げた人は少数派で、全体の3分の1にも満たなかった。 では、若い富裕層が受け継いだ美術品を手放す動機は何だろうか? 調査レポートによると、理由のほとんどは現実的なものだった。回答者の55パーセントが作品を手放した理由を保管スペースの問題とし、47パーセントは相続税を支払うためと答えている。発表イベントでUBSのエコノミストであるドノバンは、富裕層が相続税や所得税を支払うために作品を売却している(すなわち美術品が市場に出回る)という事実は、このレポートの最も興味深い部分の1つだとし、こう説明した。 「今後20年間で84兆ドルの資産が移転される見通しである一方、公的資金は不足しています。そのような環境では何が起こるでしょうか? 富裕税や相続税が引き上げられる可能性が高く、美術品のコレクションを所有する人が少なくとも一部の売却を迫られる状況が、今後さらに加速する可能性があります。今後数年間、財政政策がこの方向に向かうことが確実だからです」