投資家から評価される企業とは 「女性管理職比率が低い企業には投資しない」という判断が増える可能性も
人的資本経営への注目が高まる中、国内では統合報告書や人的資本レポートによる情報開示に加え、有価証券報告書で人や組織に重点を置いて発信する企業も増えています。これらの動きは、投資家を含めたステークホルダーの多くが企業の人的資本への関心を寄せている証左といえるでしょう。ステークホルダーから人的資本経営を高く評価されている企業にはどのような特徴があるのでしょうか。日本企業における人的資本の開示状況について分析・研究を進める野間幹晴さんは「人事だけでなく経営トップのマターとして取り組み、情報発信する体制が求められている」と語ります。実際の開示項目の状況や、エンゲージメント向上などの施策を企業価値向上につなげるヒントを聞きました。
人的資本開示の目的は、投資家と従業員
――野間さんは、日本企業における人的資本の開示状況をどのように捉えていますか。 人的資本開示を契機として、日本企業が人材への投資や従業員エンゲージメントについて強い意識を持つようになりました。その結果、さまざまな施策が行われており、今後の成果が期待されます。実際に多くの企業で人的資本開示が行われ、課題点や改善策、他社比較などが分かりやすく開示されています。 ただ、企業ごとの人的資本開示の内容には、論点があります。たとえば、あるグローバル企業は海外駐在員の人数を開示しています。これは従業員のキャリアパスやグローバル人材育成の実態や考え方を示すという意味で意義があります。ただし、投資家にとっては価値評価に反映させるのが困難な情報です。 ――人的資本に関する開示情報が、投資家にとって有用ではない可能性もあるということですか。 はい。そもそも人的資本経営の議論は「投資家にどのような情報を開示すべきか」が端緒となっています。人的資本が、将来の利益やキャッシュフフローにどう結びつくのか。それが明確に開示されている企業を投資家は評価します。 投資家の観点に立脚すると、現状の人的資本開示の中には価値評価に反映させることが困難な項目も少なくありません。非財務情報、たとえば「エンゲージメントの向上」によって、どのようなパフォーマンス向上が見込めるのかを企業は伝えなければならないのです。投資家からの評価が高い企業では、非財務情報と財務情報の関連を明らかにしようとする試みが行われています。 もちろん、対従業員や対人材マーケットの観点で人的資本開示を捉えることも重要です。人手不足が進み、人材の争奪戦になりつつある日本で、人的資本の実態や戦略、将来のあるべき姿を開示することは経営の必須課題でしょう。企業の無形資産である人的資本について、どのように考えているか。この情報が働き手にとっての重要な判断材料となることは間違いありません。ただ現状では、人的資本開示の目的が対従業員に傾きすぎている傾向も見受けられます。