世界中でEVが失速する中、なぜ「東南アジア」では急成長しているのか?
なぜ、東南アジアでこれほどまでにEV化が進んだのか
では、世界的には冷え込んでいるEV市場が、なぜ東南アジアで急成長しているのだろうか。 EVはモジュール化が進んでいて、ガソリン車と比較して必要なパーツの数も大幅に減っている。その結果として、EVの製造にはガソリン車のようなサプライチェーンを構築する必要がなく、ローカルニーズに対応した車両の企画と製造が可能になったことが大きい。 要は、EVはガソリン車のようなグローバルビジネスとは異なり、ローカルビジネスの色合いが濃いのである。 ガソリン車が一気に普及し、品質の低い車両が街中を多く走るベトナムでは、大気汚染が深刻な社会問題となっている。こうした環境下に導入されたビングループのEVタクシーは車体が新しく清潔感があり、手軽にアプリで呼んで決済まですることができ、運転手とのトラブルの心配もない。加えて環境にもよいということで、一気に普及した。 自動車の普及自体が進んでいなかったラオスでは、環境負荷が低く、低コストな水力発電による電力が豊富にあったことも相まって、EV化が加速している。 都市国家のシンガポールは国土が小さく、東京23区ほどしかない。また、人口密度が高いため、充電ステーションを効率的に設置することが可能である。そのような地の利を生かすことで、政府主導でEV化を一気に進めている。このように、ローカルニーズと一致したことで、東南アジアのEV化は急速に進むことになったのだ。 なお、ある国がEVに適しているかどうかは、その国のエネルギーミックスに依存する点を補足しておく。
衰退する日本の地方都市と、発展する東南アジアの大きな違い
イノベーションは「創造的破壊」ともいわれ、それまでにあったものを破壊して新たなものを創り出すことだと思われがちだ。実際、日本の地方都市を見てみると、個人経営の店が姿を消し、外食チェーンやコンビニチェーンに置き換わっている。その結果、社会に存在していた地域コミュニティが破壊されてしまった。 しかし、私が住んでいる東南アジアでは、昔ながらの個人経営のパパママショップが破壊されるどころか、むしろ活性化している。 これはデジタル技術の進歩によるところが大きい。消費者がスマホアプリから商品を注文すれば、30分以内にバイクタクシーの運転手がパパママショップから家に届けてくれるし、パパママショップは在庫が不足したらB2B向けのEコマースで発注も可能だ。 スマホアプリというデジタル技術を活用して、何も破壊することなくもともと存在していたパパママショップやバイクタクシー、消費者を有機的につなげたのだ。インドネシアやマレーシアと言った国々では、グラブやゴジェックなどのスタートアップが、こうした改革を先導している。 これらの国々でイノベーションが進む理由は、既存の枠組みに捉われず、新しい枠組みを創造しようとする姿勢にある。旧来の方法に依存することなく、地域固有の課題を解決するための新技術や戦略が積極的に採用されている。 そして、これらの活動をけん引しているのは、前述のビングループのようなローカル財閥、グラブやゴジェックなどのスタートアップなのだ。 デジタル革命によって、個人で実現できることの幅が圧倒的に広がった。誰でも動画コンテンツを世界中に配信することができるし、スタートアップで電気自動車を製造することもできる。そうした時代には、全世界を相手にするのではなく、より近くの市場で最適なサービスを提供することが大きな意味を持つようになってくる。 そして、すでに世の中にある技術やサービスを活用し、人や組織が持つ機能を拡張することによって生まれるイノベーションは「創造的破壊」ではなく「創造的統合」であり、持続可能な社会の実現へのカギを握っている。