振り子のような「アングロサクソン帝国」の日本評価 今後どのような関係を目指したらいいのか?
第3期・日米文化蜜月時代
アングロサクソン帝国の日本評価を敵意に一変させたのは、大陸進出よりも、日独伊三国同盟と南部仏印進駐であるようだ。その結果が強硬なハル・ノートであり、日本がこれを最後通牒と受け止めたことが、日米開戦(真珠湾攻撃)の原因となった。戦時中の評価が、こちらからの「鬼畜米英」という言葉と同様のプロパガンダに偏ったのはやむをえないことだろう。 この時期に、二つの優れた書物が成立している。イギリス人外交官歴史学者G・B・サンソムの『日本文化史』(福井利吉郎訳・東京創元社1976年刊・原本は1946年刊)とアメリカ人文化人類学者ルース・ベネディクトの『菊と刀―日本文化の型』(長谷川松治訳・社会思想社 現代教養文庫1967年刊・原本は1946年刊)である。サンソムの著書は日本文化の歴史を簡潔で客観的に解説しているので日本人にも薦めたい。ベネディクトの著書は一種の軍事研究で、日本といかに戦い、いかに統治するかという課題に応えようとするもので日本文化論の古典的名著である。大学院時代に読んだのだが、この両書は僕の日本文化論の基幹となっている。 戦後、日本はアメリカの現代文化を、アメリカは日本の伝統文化を高く評価する関係となる。 僕は、叔母の篠田桃紅をつうじて、元駐日大使でハーバード大学に日本研究所をつくったエドウィン・ライシャワー氏、日本文学の翻訳で知られるエドワード・サイデンステッカー氏、日本文化を研究し帰化したドナルド・キーン氏と面識があったのだが、彼らの分析は、日本文化に対する知的好奇心と深い敬愛に満ちていた。アメリカ人の潜在意識にあるヨーロッパ文化からの距離感が、逆に日本の伝統文化への親近感になっているのだろう。「日米文化蜜月時代」といっていい。 しかし日本経済が強くなってアメリカを脅かすようになると、日本文化に関する研究も批判的なものが増えていく。僕は、カリフォルニア大学バークレイ校にいたとき、UCLAやスタンフォード大学などからも集まった日本文化研究者の会で講演する機会があったが、質問にもなかなか厳しいものがあった。日本の車を叩き壊す映像が流れた時代、彼らにとって日本の工業力と経済力はそれだけ脅威だったのだ。 かつて留学生として僕の研究室に所属して、日本の山車(ムービング・シュラインと訳している)を研究し、今は母国の教授になっているアメリカ人は、ライシャワーなど戦後第1世代のアメリカ人日本研究者は日本文化に愛情をもって接し、僕(若山)らと同年代の第2世代は経済力の強さにライバル意識をもって批判的になり、彼(若山の弟子)ら第3世代は冷静で客観的であろうとしている、という。